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HARUの織物制作「残り糸でコースターを織る」

高機

自身の展示会などに、HARUは手軽に使って頂ける織物として、よくコースターを出品します 裂織のコースターは定番ですが、今回はリバーシブルに使える絹のコースターを織ることにしました
残り糸という言葉に余り物の響きがありますが、糸の品質は良いものです 残り糸の言い方の通り、厳選した糸で織ったショールやマフラーと同じ綛糸たちの残りの集まりです 長い間いろいろな織物を織っているうちに、どうしても残ってしまう糸がたまります

綛糸は50gから250gほどまで様々な量があります 糸染をする時は、計算上割り出した使用糸量よりも多めの目方を準備するのが通常です ショールでもタピストリーでも、糸が足りなくなることこそ困ることはないからです
それで、結果として色糸が少しずつ余ります 時には1綛丸々残ることもあります 色の見込み違いなど、制作の段階でのいろいろな支障の結果です
今回は、やや多めに残っている綛糸を経糸に、少なめの糸を緯糸にして、コースターを織ります

学生時代に織見本を作るという勉強をしました この時のやり方で、一度に30枚のコースターを織ります
織見本とは、組織の勉強のために一定の幅ずつ異なる綜絖の通し方をして織り、実際の布の見本として保存しておくものです ひとつの組織のパターンは幅10cm程、それを6つの組織を並べて60cm幅の経糸にします 踏み木の踏み方は同じですが、綜絖の通しが違うので全く別の模様ができます これを織った後、見本帳にして様々な織物制作の引き出しにします
(組織とは、経糸と緯糸の組み合わせによってできる織物の模様のことです 一番単純な組織は、平織、綾織 朱子織と呼ばれ、三原組織といいます)

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今回のコースターは、経吉野織という平織変化組織を織ります 昔から帯に好まれる織り方で、経糸の混ませ具合と打ち込みで微妙な曲線が生まれます ただ、帯とは違い、コースターはあまり大柄ではまとまらなくなると思い、小柄に統一します
リバーシブルに利用する布は絹布を予定しています これも縫製の残り布ですが、ひとつひとつ丁寧に織ったものですから自分なりの思い入れはあります これに合わせるために、経吉野に織る糸も絹糸にします
コースターの出来上がりの予定として、幅長さとも11cm〜12cmを見込んでいます リバーシブルにするために、その縫い代と織縮みも想定して1枚の幅を15cmにします その上で、色違いの経糸を3通り15cmずつかけることにします
3通り共経吉野織にします 3つの違いは経糸の色と模様を出すために繰り返す本数です
最初から計画して染めた糸ではなく、残った糸からコースターに適当な色を選ぶのはかなり迷います ただ、織物は経糸のみで決まるわけではなく、緯糸の色と素材を織り込むことでいかようにも変化します それに期待して、緯糸の変化の出やすい色を選びます


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これらの絹糸は絹紡糸と呼ばれる糸種です 絹紡糸は繭の屑を紡績した糸ですが、問屋さんによって様々な糸質があり、商品名も違います 生糸や玉糸に比べ価格が安いことと、空気を含む性質があるので、ショールなどの制作にはよく使用しています 絹らしい光沢が少ないのも特徴です
この3種の糸も違う糸質です 明るいグレーの糸は、光沢があり一番細いものです 強めのピンクの糸は、僅かな濃淡の色の差があるのですが、混ぜて使用することにします かなり屑の出るぼそぼそした糸です 薄めのベージュの糸は、前述の2つの糸の中間くらいの細さでネップが目立ちます 若干の違いはありますが、3つの糸はほとんど同じ程度の糸の細さです
筬は、鯨尺の30羽の丸羽に決めます 帯程には混ませないで、絹紡糸の柔らかさを得たいと思います 縫製で2枚重ねにすることと、経吉野織は布が厚めになりやすいこともあります
前述のように、これらの糸で15cmの幅を3つ作ります 織幅は45cmになります 15cmは約4寸です
30×2×4=240本(30羽の丸羽が4寸あるという計算) これが1つの色の本数になります
整経をする長さを決めます コースターの1枚の長さは、幅よりも長めにとって5寸=約19cmとします それが10枚分で190cm さらに経糸の前と後の織れない長さを60cm加えて250cmに計算します
それぞれの色糸を8本ずつ大管に糸巻きをします 糸車で80回転巻きます 8本の大管を、大管立てに色別に立てます


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最初に左の8本、明るいグレーの経糸を整経します 大管8本の糸のみ240本整経して、終了後この糸は終点の棒に結わえます


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次に、真ん中のピンクの経糸を同じ240本整経します 最初の経糸の上に続けていきます


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最後に、薄めのベージュの糸を同じく240本整経します やはり2つの色の上に続けます


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こうして3色の経糸を同時に整経し、あぜの確保は1つにし、また折り返しと終点の結び付けも1つにまとめます


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あぜにあぜ棒を通し粗筬を終えると、3色の違いがはっきりわかります 同じ絹紡糸でも手触りにはそれぞれ特色があり、30羽に通したきつさ緩さも多少違っています 真ん中のピンクがややきつめの感触があります


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このまま千巻をし、綜絖通しに入ります

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3つの経吉野織の変化をつけるために、あらかじめ綜絖通しの本数を決めます
吉野織に限らず、順通し(1−2−3−4)ではない通し方をする時、織端が乱れることがあります それを防ぐために、両端の経糸4本のみ別の通し方をします(すべての織端にこの通し方をするわけではありません)


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横の線が綜絖、下から1の綜絖、2の綜絖…と読み、4枚の綜絖に通すことを表しています ●は糸の通っていることを示します
前述の通り、3つの色の本数はそれぞれ240本ずつです その240本の中で、綜絖に通す本数の違いで模様に変化を出します
経吉野織の綜絖通しは、1ー3の繰り返し、2−4の繰り返しをします (綜絖は前から1、2、3、4と数えます)
1−3の繰り返しで一定の経糸の飛びができ、2−4でもう一方の経糸の飛びができます 経糸の飛び方が交互になります そのため、この時の本数の違いが模様の変化になります 飛びの経糸の間に平織が入り、経糸と緯糸をしっかりおさえます
綜絖通しは、(右利きの場合)右から始まります
最初は薄めのベージュの通しをします


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ここに書かれている通し方は、単一の組織です 単一組織とは、基礎になる糸の通し方と踏み木の踏み方の最小単位のことです
1−3の繰り返しが7回で14本(2本×7回=14本)、2−4の繰り返しが7回で14本(2本×7回=14本) 同本数ずづ繰り返していきます
1−3と2−4の繰り返しの合計が、14×2=28本です
ひとつの色の糸本数が240本ですが、右端の4本を織端の揃えのために除いているので、240-4=236
236÷28=8.428…、この単一組織の通し方を8回繰り返し(28×8=224 236-224=12)残った12本を1−3の通しで繰り返します


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次に、ピンクの糸です
ベージュより大柄になり、1−3が15回の繰り返し(2本×15回=30本)、2−4も15回の繰り返し(2本×15回=30本)になり、30本ずつ60本が単一の組織になります ベージュの約2倍です (上図から下図への矢印は-続く-の意味)
ここでは240本の糸本数ですから、240÷60=4でこの繰り返しを4回通します


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最後に明るいグレーの糸です
1−3の繰り返しを8回、2−4の繰り返しを15回と、本数を変化させます この変化は、経糸の飛び幅の変化になります 1−3を8回(2本×2=16本)、2−4を15回(2本×15=30本) 16+30=46本が単一の組織の本数になります
この糸にも左織端の揃えの4本を除きますから、240-4=236 236÷46=5.130…、単一の組織を5回繰り返し、46×5=230で、236-230=6本のみ1−3の通しにして、織端の4本に入ります

同じ経吉野織ですが、糸の繰り返しの違いで模様の出方を変えることができます

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綜絖通しの通し方の図は、糸を1本ずつ示したものです
筬通しは丸羽ですから、1目に2本の糸を通します 1−3で1目、2−4で1目になります

男巻結び付けは、通常通り1枚の布を織る要領で進めます


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綜絖枠と踏み木は、イタリアンコードで繋がっています
踏み木には、1本につき4〜8の丸穴が空いていて(穴の数は機により違います)、踏み木の裏にイタリアンコードの止めの結びがあります


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このイタリアンコードが綜絖枠の下部の丸穴を通り、いかり結びがされています


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この踏み木の穴と綜絖枠の穴の繋がっている関係を図に表すと、写真のようになります
実際の踏み木は6本吊られています、今回の経吉野織では4本の踏み木を使いますから、他の2本は省略しました(中央の2本の踏み木)

●印は踏み木と綜絖枠がイタリアンコードで繋がっているという意味です 踏み木1番は、3と4の綜絖枠と繋がっています 踏み木2番は1と2の綜絖枠と繋がって、踏み木3番は2と3の綜絖枠と、踏み木4番は1と4の綜絖枠と繋がっています
この踏み木と綜絖枠の結び方は、多くの場合の基本型です この4本の踏み木と後の2本の踏み木は。滅多に結び変えることはありません(ただし、写真の4本の踏み木と綜絖の関係はこの順列に並びますが、今回使用しない2本の並べ方は人により様々で決まりはありません また、滅多に変えることはありませんが、変えなければならない組織も数多くあります)

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織物は、綜絖の通し方、綜絖枠と踏み木の吊り方、踏み木を踏む順番によって組織が布に表れます
経吉野織の基本の踏み木の踏み方です
下部の小さい●は踏み木と綜絖枠の関係です(イタリアンコードで繋がっている状態) 縦の線上に付いている大きめの●は、この踏み木を踏む、という意味です 下から上に読み進みます
踏み木を右から1、2、3、4、とします 緯糸1段目はは3の踏み木です 2段目は2の踏み木、3段目は3の踏み木というように読んでいきます 3−2−3の間に太線が引かれていますが、これはこの3つの踏み方が1つのグループ、あるいはパターンだということです
緯糸4段目は4の踏み木、5段目は1の踏み木、6段目は4の踏み木 ここで2つめのパターンが終わります
7段目は3の踏み木、8段目は1の踏み木、9段目は3の踏み木 3つめのパターンが終わります
10段目は4の踏み木、11段目は2の踏み木。12段目は4の踏み木 4つめのパターンが終わります
この4つのパターンが、経吉野織の単一の組織の踏み方になります 1つのパターンに緯糸が3段になります
今回のコースター作りには、2通りの踏み方をしました
前述のように、単一の踏み方 3−2−3 4−1−4 3−1−3 4−2−4 の繰り返しが1つ=A
もうひとつは、前述のパターンの踏み方をリピートする踏み方です
単一のパターンごとに繰り返すと柄が大きくなります 柄が大きくなっても経糸の飛び方は変わらないので、糸が不必要に歪んだりすることはありません
1つのパターンを緯糸を5段にして、
3−2−3−2−3 4−1−4−1−4 3−1−3−1−3 4−2−4−2−4 の踏み方を繰り返します=B
2通りの使い分けは緯糸の太さで決めます 経糸と同じか細い緯糸を選んだ時はBの繰り返しを用い、やや太めの緯糸の場合はAの繰り返しを行います

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緯糸を決めます
といっても、これも残り糸を使用するので、それほど選択の幅があるわけではないですが、織幅が45cmで長さを19cmずつ織るので、量は大量にはいりません 小管に7、8個、多くて10個あれば充分です 経吉野織は、存外打ち込みで緯糸が入る織り方です 同じ長さでも平織に比べると緯糸量は多いと思います
よさそうな糸を最初に取り出しておきます


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経糸に使った糸も入っていますが、その他以前大管から巻き戻した糸も多く残っています 経糸に使うには足りない、でも何かに使いたい そんな時に、コースター作りは重宝です
実際に使用した緯糸の色見本です


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緯糸を変えるだけで、織物の色合いが変わります
黒い緯糸を使用したものは、Aの繰り返しをいています もう一方は経糸に使用したベージュと同じ糸を緯糸に使用して、Bの繰り返しをしています


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小柄でわかりにくいのですが、本数に変化を持たせることで柄の幅に違いが出ます


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織ること自体は1枚の布を織っていくことと違いはありません ただ、柄の変化と共に、緯糸の色の違いが3色の中でどう出るかは、織りながらも考え込みました 使用目的をコースターにしたことで、あまり奇抜な色合いは避けようと、ピンクはともかく地味な色を選びました また、こうした色が多く残っていたこともあります
最初は右のベージュと左のグレーの違いがはっきりとわからずに迷いました 逆に真ん中のピンクが緯糸によってかなり強くなるので、きつすぎたかとも思いました
経糸と同じ糸や同色に近い色を使っていると無難で安心感はあります でも、それでは同じものばかりが揃ってしまうと思い、黒や青、緑なども入れてみました
こうした配色は好き嫌いもありますから何とも言えませんが、ピンクに緑といった補色の取り合わせも、織り方によっては互いの色を引き立てることがあります コースターという小物なので、むしろいろいろな冒険ができる 半分を過ぎた頃にそのことに気づき、もっと長く経糸を整経すればよかったな、と思ったのが本音です
織り上がった不思議な格子の布です


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そして、やはり残った糸たちです

今度は、いつお目にかかるでしょうか


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水通しの仕上げの後の、同じ緯糸で少しずつ柄が違う布


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経糸をもっと混ませたら、経吉野織の飛びがさらにはっきりします 今回は30羽の丸羽にしましたが、35羽の丸羽でも良かったかなと思いました
裁断した3色の布です こうして裁ってみると、まったく別の布になったような気がします


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今回のコースター作りの経吉野織のもう片面の布は、絹布ながらいろいろな手触りのものを集めました 着尺の残りあり、ブックカバーの残り布あり、天然染料を用いた布が多くなりました 片方は合成染料、片方は天然染料という取り合わせもできました リバーシブルだからこそできる楽しさだと思います


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リバーシブルにするための織り方もあります 昼夜織やあじろ織を応用すると、1枚の布で柄の違う織物ができ、これはこれで楽しいものです 縫製という手間もいりません(コースターにするための多少の手間はありますが)
絹糸とひとくくりに言っても、その風合いは様々です 異質と感じるくらい違う手触りに思えるものもあります こうした布を縫い合わせて、ひとつのものにする そして、ささやかながらも生活の中の彩りに添えることも織物の楽しみ方だと思います
当初、11〜12cm正方程度の形をイメージして織りましたが、ひとつひとつの大きさがやや大きくなりました コースターらしく正方形に縫製したものもありますが、多くは無駄に裁断をせずにそのままの大きさを活かして縫い合わせました だから、色も柄も大きさも、ひとつとして同じものがないランダムなコースターになりました


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