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織物の工程「仕上げ」

織り上がったばかりの織物は、見た目も手触りもぎこちなくかたく感じます 「仕上げ」は織り上がりのかたさから、素材本来の風合いを引き出す工程です 仕上げは、織物の最後の工程になります そして、その出来を左右する大切な作業です

仕上げの方法は、織物の素材、用途、大きさなどで様々あります 同じ目的の織布でも、必ずしも同じ仕上げをするとは限りません 仕上げの方法を選ぶ時、織布の良さを引き立たせ、どんな質感と風合いを求めるかを考えます

ここでは、主にショールの仕上げを記します 一概にショールといっても、使用している素材はいろいろあります 
織物の目的はショールですが、同じような感触の織布にも適応できます

ショールの房作り

ショールやマフラーには房がついているものが多いのですが、房を作らない方法もあります 房を作らない場合は、織端から緯糸がほつれないように工夫する必要があります ロックミシンでかがったり、織端を針と糸でまつり上げたり、あるいは経糸を織布の中に縫い合わせたりと、それぞれの好みで形を整えます ここでは、よく見かける撚り合わせる房の作り方を記します

機から切り離したショールの両端は、とても乱れています 男巻に結んだ方はロット棒を抜いたままの状態で結びっ放し、もう片方は鋏で切りっ放しで緯糸が歪みかかっていることもしばしばです まず、男巻側の結び目を、経糸を引っ張りすぎないように丁寧に解きます 結び目の糸の癖がついていますが、手櫛か目の粗い櫛で梳くとまっすぐになります


織り

解き終わったら、前と後ろの経糸の長さを揃えます 10cmずつ、房の分として織らずに糸のままになっています 男巻側の結び目の糸は10cm以上あることが多いので、ショールの織端を合わせて両方の糸を10cmの長さに揃えます 房用の糸の長さは10cmですが、撚り合わせると1〜2cmは短くなります 長い房を作る場合は、前もって長めに計算しておきます


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ショールの織端あたりに、動かないように重しを置きます

ひとつの房の幅は、それぞれの好みで決まりはありません 本数で決めてもいいですし、大雑把に選り分けても差し支えありません ここでは約1.5cm幅とし、その幅の経糸を選り分けます この時に、選り分けた糸と隣の糸の間に経糸の分かれ目ができます 緯糸が目立つ程隙間ができることもあるので、房と房の隣り合った糸を1本ずつ引っ掛けるように交差させます 端の糸だけ隣の房に入る形になります こうすると緯糸の止めになることと、見た目もきれいに撚ることができます この方法は、平織や昼夜織、吉野織などの平織の変化組織では選り分けやすいですが、綾織は引っ掛けて交差できる糸が限られますから、交差の様子を見て幅を決めます


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糸の撚り方は文字の形になぞった呼び方で、Z撚りとS撚りがあります 房の撚り方もそれと同じです 1つの房分として分けた1.5cm幅の糸を2つに分けて、それぞれを同じ方向に同じ回数、7〜8回撚ります 撚った2本の糸を1本にして反対方向の撚りで合わせます 1度目にZ撚りをしたら、撚り合わせにはS撚りをします 撚り合わせた房の端を結びます 房の結び目の位置も糸の端で結ぶか、余裕を持たせて結ぶか、それぞれの自由です

絹糸は絡み合う性質が少なく、結び目を切り落とすと房が解けてしまうため、仕上げ後は結び目を残します ウール糸のショールの仕上げは「縮絨」をして房を固めますが、絹糸は高温に弱いために別の方法で仕上げを行います

仕上げ前と仕上げ後の縮み具合を記録するために、ショールの長さと幅を測ります 絹糸でも種類により性質の違いがありますし、織り方によっても織縮みの割合が変わります また、ウール糸のショールは絹糸よりも縮み分が多くなります 
最後の段階でどのくらい縮んだかを正確に記録することは、今後の制作の参考になります

絹糸使用のショールの仕上げ

絹は温度の変化に敏感です 急激な温度変化は絹を傷めます このため絹糸のショールの仕上げは、「水通し」をします 暖かい季節なら水で、冷寒期なら35度程度のぬるま湯で行います


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タライ、または流し台に水を張ります ショールがゆったりと泳げるくらいの余裕があれば、容器は何でも構いません 写真ではショール2枚を充分に広げられる大きめの流し台に水を張っているので水量は少なめですが、ショールの広さより小さいタライやバケツを使用する場合は水の量を多めに深くします

絹糸は水分の吸収が遅いため、水中でショールをゆっくりと動かして、隅々まで浸透させます できるだけ水面から布が出ないように広げ、このまま40〜60分浸します 水通しの時間は、実際に水に浸したショールの変化を目で確かめて決めます 乾いた布を水に浸けると、織り目が締まると同時に糸なりに変化が表れます シボができたり、糸を飛ばす組織を織った時は糸が歪んだりします 仕上げの時の織布の変化は事前に予想できないことも多いのですが、経験を重ねることである程度は把握することはできます それでも同じ糸なりの変化を繰り返し求めるためには、幾度かの試作が必要です

ショールに充分に変化が見えたと感じたら水からあげます 水がしたたるショールを脱水機に入れ、30秒脱水します 30秒という時間は水分がショールに残っている状態です 脱水時間が長くなるとショールを絞り切ってしまってシワがつきやすくなります


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できるだけ室内に、水分の残っている状態のまま干します 直射日光は絹を傷める原因になります 脱水によってできたシワを丁寧に伸ばし、織り目に沿って上下の長さを均一にし、できるだけ経糸と緯糸の線を揃えます また、織耳は折れやすいので、濡れた状態の時に伸ばしておきます

布が乾いたら、作品としての仕上げをします 房の結び目からはみ出した糸を切り揃えます また、始末し忘れている緯糸の糸端や修正の跡も確認します

水通し後の長さを測ります 素材や織り方により違いがありますが、機からおろした段階と比べ、約1割程度は縮んでいることが多いとされています

ウール使用のショールの仕上げ

ウール糸の織物は、「縮絨(しゅくじゅう)」をします 縮絨は、適量の中性洗剤を加えた熱めの湯の中で、織物に摩擦を加えて経糸と緯糸を定着させることです ウールの織物では必ずやらなければならない作業です ただ、ウールの服地は、織布の幅が広いこと、経糸と緯糸を充分に絡ませることが必要で、そのために強い縮絨をしなければならないことから、設備の整った専門の業者にお任せした方が安心です

ここでは、手軽にできる比較的小さめのウールのショールに適した方法を記します

丸棒を使用する縮絨

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道具は、ショールの幅よりも長い丸棒を使用します 直径5〜9cmの塩化ビニール管が1番使いやすいですが、木やステンレスの棒でも構いません ただ、木を使用する場合は、木の色が織布に滲まないように木綿布を念入りに巻きます


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ショールを、房を含め経糸緯糸の線をまっすぐにして床に広げます 片方の房の上に丸棒を置き、経糸と緯糸の線がずれないように巻いていきます ただ巻くだけでは緩くなるので、布面を引っ張りながらかたくと巻きます 最後の房も同じように巻きつけます


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丸棒が充分転がせるタライか流し台に、60度程度の湯を張ります 湯量はショールを巻いた丸棒がかぶるくらいです 洗濯時の液量より少なめの中性洗剤を、湯に入れます 60度前後の湯は熱いので必ずゴム手袋を着用し、洗剤を入れた湯を撹拌して、ショールを巻いた丸棒を湯の中に入れます

ショール全体にまんべんなく湯が浸透したら、丸棒に体全体の力を乗せるイメージで、両掌を広げて湯の中で丸いショールを転がします 転がし続けながら、丸棒に巻いたショールを湯の中に少しずつ広げていき、広げながらも丸棒は転がし押し続けます ショールの場合は、約10分程度が縮絨の目安です 長時間続けるとフェルト化してショールが固くなってしまうので注意します 織布の経糸と緯糸の繊維が程よく絡んで定着したら、縮絨は終わりです


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縮絨の終わりに、房部分だけ揉みます 房の撚りが戻らないように、念入りに両手で揉みます その後30秒の脱水して、素手で触れることのできる温湯を張って泳がせるように洗います 2、3度湯を取り替えて洗剤を洗い流し、30秒の軽い脱水の後、室内に干します 経糸と緯糸の歪みを直して、形を整えます 丸棒の長さが余裕をもって入る流し台やたらいがない場合、浴槽で行うこともできますが、姿勢が不安定になることがあるので注意します



屏風たたみにする縮絨

屏風たたみとは、織布をアコーディオンのようにひだ状にたたむ方法です 長い織布や幅の広いものはできませんが、狭めのショールやマフラーでしたら、この方法は場所を取らず簡単にできます ただ、折り畳んで縮絨をするので、織り目をつけないように注意をします

縮絨の手順は丸棒を使用する方法と同じです かぶる程度の湯の中で両手で押し洗いをするように押します 織り目は押さず布の面を押して、少しずつたたんだ面をずらしていきます ずらしながら、まんべんなく織布全体の縮絨を行います 最後に房を揉みます

この方法は場所を取らず、織布の様子が見えやすい便利さはありますが、縮絨がムラになりやすく、織り目に注意をしなければならない面倒さはあります

ウールショールの仕上げ

縮絨が終わり、乾いたショールの房を整えます 絹糸のショールと違い、ウールは房の撚りが戻らないように処理をしています 結び目を切り落としてもいいですし、あえて残してもいいと思います 房の形はそれぞれの好みです

完成した形の長さと幅を測ります ウール糸は縮みが大きいので、記録は大切です

アイロンがけは、ショールには必要ありません アイロンをかけることで、織布の織り目や質感を潰してしまうからです シワ取りという目的なら、仕上げ後に干す段階で丁寧に形を整えることで解決しますし、その方が自然に仕上がります もしアイロンをかける時はウールの質感を損なわないように、アイロンを浮かせてスチームをかける程度にします

ちなみに、絹ショール、ウールショール共に、シワがついた時は、もう1度温湯に浸して軽い脱水の後に丁寧に干せばきれいになります

複数の素材を使用したショールの仕上げ

複数の素材を合わせて織ったショールは、素材の割合により仕上げを変えますが、厳密に線引きはしていません 複数の素材を使用した場合の仕上げとして、ウール糸の割合が多い時は温度低めの湯で軽い縮絨をした後に、洗濯機で1〜2分弱い撹拌するやり方があります ウール糸のみのショールにも言えることですが、縮絨はウールの繊維をしっかり絡ませ織布を丈夫にすると同時に、ウールの持つ本来の柔らかい毛羽を押さえつけてしまいます 洗濯機で撹拌することに抵抗を感じやすいですが、逆に洗濯機の無造作さがウールの繊維を立たせ、暖かさを蘇らせてくれます 洗濯機の撹拌で織り目が荒れるようなことはありません この方法は、最初の軽い縮絨の際に洗剤を使用し、洗濯機での撹拌の時は水または温湯のみで行います 2分以上の洗濯機の撹拌はショールの織り目の様子を見ながら行います

ショールの素材に絹糸の割合が多い場合でも、洗濯機を使用することはあります 洗剤を入れずに洗濯機で1〜2分弱い撹拌して、30秒の脱水で終わらせます あるいは絹糸のショールと同様に水通しのみの仕上げをすることもあります どの選び方をするにしても、仕上げをすることでショールが心地良く生まれ変わるなら、道具も使いようです

複数の素材を併用すると、仕上げや洗濯が楽になります ただ、房の処理は絹糸を使用している場合は、結び目を切ることは避けます

その他の織布の仕上げ

織物は、ほとんどの場合仕上げが必要です 絹、綿、麻の、特に経糸緯糸の目の締まった織布は、必ず水通しをします


織り

繊維どうしが絡みにくい素材の場合、織物の織り終いから緯糸が解けることがあります それを防ぐために、機から切り離す前に織前のかがりをします 特に裂織のような太い緯糸で織った織布は解けやすいので、あらかじめかがっておいた方が安心です


織り

織布をタライや流し台の大きさに合わせて屏風たたみにします そのまま水を張った流し台に浸します 素材によっては水の浸透が遅いものもありますから、水が織目に入るように手で押します 長さのある織布、シワになりやすい素材を使用した時は、屏風たたみの状態で水通しを続けます シワの心配のない織布であれば、水の中にゆっくりと広げていきます 織布に水が浸透しているかを確かめながら広げます

水通しの時間は、織布の厚さや長さ、水の浸透の仕方によって違います 織り目がしっかりと締まるまで浸けておきます 30分〜1時間、長い時で2時間行うこともあります 織布を引っ張りながら締まり方を確かめます


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織り目の締まった織布の水通しは脱水をせず、水がしたたる状態で干します そのため、必ず天気の良い日を選んで行います 晴天の下で一気に水分を飛ばす方が、仕上がりがしっかり締まります

このように水通しをした織布は、既製品ほどではないものの、鋏で切ってもあまり解けません ただし、裂織などの例外はあります

織り目のしっかりした織物に着尺があります この織物も水通し、または湯通しをします 着尺の水通しは、伸子張りが必要な上に、長さがあるためにかなり広い場所で作業をしなければなりません さらに着尺の仕上げには「湯のし」という工程もあります すべてを行える設備は一般にはありませんので、仕上げ全体を湯のし屋さんなどの専門の職人さんにお任せする方が適切です

織物には、あえて仕上げをしないこともあります

タピストリーは、最初から織り上がりを完成の形にイメージして織ります 仕上げをすることで形が崩れることがあるために、仕上げはしないことが多いです

また、敷物は充分に堅く目を詰めて織ることが多いので仕上げをしない場合が多いですが、敷物の織り方によって違いはあります 技法や素材によって判断することになります

仕上げは、全行程の締めくくりの作業です 織物が用途のある布に生まれ変わる瞬間です そこに出来上がった布が、1番最初の計画と違ったようになったとしても、それも糸が作ってくれた贈り物だと思います

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