ここでいう緯糸を飛ばすとは、緯糸が経糸を飛び越したりくぐり抜けたりして通るはずの段に入っていないことをいいます
原因は、踏み木の踏み間違いや経糸の開口の悪さにあることが多いです その原因を直すことも無論ですが、まず飛ばしてしまった緯糸を抜きます
杼を入れた直後に緯糸の飛ばしに気づいた場合、まず杼を入れた方向に戻します そうすると、戻した緯糸に経糸が引っかかります 杼を戻した方の織端で、戻した緯糸を織耳から1〜2cmのところで切ります 経糸に絡んだ緯糸が切られたので、この糸を引いて絡みを抜きます 次の踏み木を踏み、織耳から1〜2cmに切った糸を改めて開口した経糸に入れます 織耳からわずかのところでこの糸は収まります 同じ段に新たに杼を入れ、1〜2cmの糸端と杼の緯糸の糸端を1cmほど重ねて筬を打ち込みます その後、織りを再開します
数段織ってから緯糸の飛ばしに気づいた場合、経糸が切れた時の修復の方法と同様に、既に織った緯糸を逆の踏み方で戻して解くことは経糸を傷める原因になります 入れ違った緯糸の段まで、経糸と経糸の間を3、4ヵ所程鋏で緯糸に縦に切り込みを入れます この切った緯糸を、指で抜いていきます 始めに織面中央から抜き、次に織耳の緯糸を抜きます この時、経糸を切らないように注意します
緯糸を飛ばした段まで緯糸を抜き、正常な経糸の状態にして織を再開します 再開の始めに、糸端を重ねて織り始めます
緯糸を飛ばした状態はこうして直しますが、緯糸を飛ばした原因を考えます 1番多い原因に踏み木の踏み間違いがあります これは足の踏み場に注意を怠らないようにするしかありません それと同じくよくある原因は、経糸の毛羽が引っかかり開口ができずに緯糸が飛んでしまうことです 織り途中の毛羽なので、糸を傷めないように丁寧に毛羽を除き、ヤマト糊を摺り込んで毛羽を伏せます
正常な打ち込みで織っている時の織前は、筬に対し平行でまっすぐです 織り進んで織前と筬の間が狭くなり、菊を外して千巻の経糸を引き出して織った織布を男巻に巻くと、織前が一気に波立つように歪みます 歪みは織前のみでそれ以前の段は正常です
これは、経糸の張りが緩んだために織前の緯糸のみ打ち込みの抑えが解けたためです どんな打ち込みをしていても起きることです 男巻を巻いて経糸を張り直した後、このまま次の緯糸を入れるとこの波立ちが歪んだまま次の段の緯糸が打ち込まれます 男巻に巻く長さはおおよそ同じですから、同じ長さの織面に歪んだ筋が残ることになり、織りムラになってしまいます
これを避けるために、経糸を張り直した時は必ず1回筬で打ち込みをします 強い打ち込みの時は強く、抑えた打ち込みの時は抑えて、通常の力で緯糸を抑えて歪みを直します
細かいことですが、織りムラは織り上がり後に気づくことが多いので、織っている最中に気をつけます
織耳とは、織物の左右の端です
左右の織耳に緯糸が飛び出したり引っ込んだりと凹凸ができることは、織に慣れないうちは必ずあります
経験を重ねるうちにいつの間にがきれいな織耳になっていたということも多いです
作品によっては、織耳が揃っていないと不自然に見えるものもあります(単の帯など) ですが、ショールやマフラーは織耳のみを見せて使うことはあまりありませんし、タピストリーなどは大きさにもよりますが、少しくらいの織耳の不揃いはあまり目立たないものです ただ、織っている人の目は、織面の20〜30cmしかありません 短い長さ故に気になることは仕方がないことです
織耳の不揃いを気にするあまり、織端の糸を指で掻いたり引っ張ったりしがちですが、これをすると逆に経糸が乱れます
織耳は、様々な力関係で形を成します 経糸が均一に張られているか、特に織端付近の緩みはないか 小管の巻き方は緩くはないか 杼の持ち方は正しいか 踏み木と打ち込みのタイミングは正確か すべてが関連して、緯糸が杼から繰り出されます
これらのひとつひとつを改めて点検してみることも必要です
意識して織耳を揃えるならば、開口した経糸に入れる緯糸の張り方を工夫します 緯糸が太い時は織前に緯糸で山を描いてから打ち込みます 山の大きさは糸の太さによって変わりますから、試しつつ調節します 山を描くことで緯糸に余裕ができて縮みが抑えられて、織耳も乱れにくくなります
また、細い糸を使用する時は、開口して緯糸を入れた際に杼を持つ手の薬指で小管の回転を抑えると程よい緯糸の張りを保つことができます
支障ということではないですが、2種以上の緯糸を使用する際の緯糸の入れ替えは意外と目立ちます
複数の緯糸を使用する場合、糸種の数、または色糸の数だけ杼は用意します
どのような柄ゆきにするかで緯糸の入れ方も違ってきます 織り人の数だけ柄ゆきがあるので、ここでは2通りの緯糸の替え方を記します
ひとつ目は細い緯縞(よこじま)です 例えば、地(じ)の緯糸の中に2種の細かい緯縞を重ねて数段入れるという柄ゆきであったとします 地の緯糸を織っていて途中で緯縞を入れる時、まず織っていた地糸を切らずに杼のまま杼箱に置きます そして、1番目の縞の緯糸の杼に替えます 緯糸を織前に通して通常通り打ち込み、踏み木を変えます 織端に縞糸の糸端が出ていますが、この糸端は踏み木を変えた開口の中に入れます
そのままこの緯糸で段数を織ったら、この緯糸も切らずに杼箱(機の両脇にある道具入れの箱)に置きます 2番目の緯縞の杼に替えて数段織ります この時の糸端の始末も1番目の緯縞と同じです この緯縞を数段織り、再び前の緯縞に替えます この時2番目の緯縞の糸を織る予定が4〜5cm先ならば、ここでこの緯縞を織端から2cmほど先で切り、この緯縞と同じ段に入れます その時に織耳の端の経糸1本に糸端を掛けてから同じ段に入れて打ち込みます こうすることで同じ緯縞の中に同化されます それから1番目の緯縞の緯糸を数段織り、地の緯糸に戻る時に、この緯縞も織端の2cm先で切り、糸端を織耳の経糸に掛けて緯縞の最後の同じ段に入れて打ち込みます そうして地の緯糸に戻りますが、地の糸は1度も切らずに杼箱に置いたままになり、再度織り始めると緯縞の織耳を糸だけが飛び越す形になります 2種の緯縞も繰り返すうちは切らずに織耳に糸を飛ばします この方法は、織耳に糸が残っても気にならない程度の細い幅の時に役立ちます この幅は、約3cmが限度です
この方法は、織る目的により向かないこともあります 織耳を気にしないもの(仕立てを前提にしたものなど)はいいのですが、ショールなど織布をそのまま用いるものは、織耳に出した緯糸にアクセサリーを引っ掛けてしまうこともあります 細い緯縞でも用途によって細かく始末した方がいい時もあります
ふたつ目は広い緯縞です 縞というよりは緯糸を替えて織る方法になります 緯糸の入れ始めの糸端は、最初の段の打ち込みが済んで踏み木を替えた次の開口の織耳に入れます そして、この段の緯糸を入れて糸端を同化させます 緯糸を替える時は、織耳から2cm先を切り、織耳の端の1本の経糸の掛けて最後の同じ段に入れて打ち込みます この繰り返しで緯糸を替えていきます
織耳の端の経糸に掛けて同じ段に入れて織ることは指先の細かい作業ですが、替える際に切る長さを長めにして、1、2cmのみ織り込み余分な糸端は織面に出して、織り進める途中で織面間近で切るというやり方もあります
小管を巻く時、緯糸が織面のどこで終わるかを計算して糸巻きはできません
織耳の先でなくなれば次の段に糸端を入れて、新しい小管の緯糸を織耳ギリギリのところで重ねて同化させます
織面の中程で緯糸が終わった時、ふた通りの方法があります
ひとつは終わった糸端をそのまま織面の中に入れて打ち込み、その糸端に新しい小管の緯糸の始めの糸端を1cmほど重ねて同化させて織り進める方法です 緯糸の継ぎ目が見えないように、長く重ねないようにします
ふたつ目は、終わった緯糸を織耳から2cmほどの織面に引き出し、新しい小管の緯糸を織耳から始める方法です 織耳で緯糸が終わった時のやり方と同じです この方法では継ぎ目が目立つことがないことと、太めの緯糸はこちらのやり方の方が目立たずに向いています
高機で織る織物は、絵画のように一目で全体像を確認することはできません それは長さの確認でも同じです
織物の目的のために、現在どのくらいの長さを織っているかを確認することは大切なことです
紙テープに目盛りを書き、織耳に待ち針で留めるやり方が一番簡単です 織るものによって紙テープの長さを変えます
ショールのように一枚の紙テープで織り始めから終いまで測ることのできるものは、ショール1枚分の紙テープに10cm単位で印をつけます 服地や着尺のように何mも織る時は長い紙テープは邪魔になります その場合は1m単位の紙テープを基準にして、これを何回繰り返して付け替えたかを記録しておく方が便利です また、緯糸に規則的に柄を入れる時に、この紙テープに柄の幅を書き込んでおくと同じ長さの柄を織ることができます
ただ、紙テープの長さと実際の織物の長さは違います 織物には必ず織縮みがでます 紙テープ通りに160cmに織ったショールを機から外すとそれより短くなるのは織縮みのためです これを防ぐには、あらかじめ織縮みの分を紙テープに書き込んでその分も織ります
織耳につけた紙テープは、男巻に巻き込まずに織面に付け替えていきます 男巻に布を巻く時に紙テープの位置を付け替えることが多いのですが、その時に経糸を緩めたままで付け替える方が織縮みのために短くなることを多少は防ぐことができます
マフラーやショールを3、4枚分整経した時に、先に織った1枚分のみ機から外したい あるいは計画では長く整経したが、途中で終わらせて残った経糸で新たに別のものを織りたいなど、経糸の織り終わる前に織った織布を途中で切る場合があります
また、着尺のように長く織る時、早い段階で男巻布に結び付けた経糸の結び目を切り離すことがあります
その方法は、織り付けと結び目の境目を切りその上で男巻布を外すか、男巻布のロット棒から経糸の結び目を抜いて男巻布を外します 男巻布は男巻にはめてあるだけなので、容易に外せます
織布の始めはこうして外せますが、この時必ず注意することは途中で鋏を入れる予定の位置から先、50cm〜60cmを織っていることが大切になります この50〜60cmの織った部分が男巻布の代わりになります
織布や結び目を切り離してから、男巻布を外して続きの織物を男巻の溝に直接抑えの棒ではめます こうすることで男巻布とロット棒で結び付けられていた時よりも、織物が機本体に直に張られて織り良くなることがあります 着尺や服地では腹に当る結び目が邪魔なことから、直接男巻にはめ込むということもあります 結び目がなくなることで男巻に入れた機草の必要もなくなります
新たに男巻の溝にはめる時は、経糸の流れを確かめて男巻と千巻の中心を合わせます 織物によっては柔らかさから歪みやすいこともありますが、織物の緯糸の線と男巻の溝の線を正確に一致させます その上から棒を慎重にはめます 溝にはめたら男巻に巻きますが、この時に巻く長さが短いと男巻の溝にはめた棒が経糸の強い張りに負けて取れてしまいます 50〜60cmの織った長さが必要になる理由は、男巻に充分に巻き込んで溝にはめた棒を固定するためです
この方法を行うためには、男巻の溝にはめることができる織布の厚さが必要です 厚手の織物ははめること自体が無理なことが多く、力任せにはめて男巻の溝の棒を折ることもあるので、そうした織物は男巻布から外さずにそのまま織り進めます
織物を途中で切る場合、50〜60cmの分を織らない時は経糸に直接鋏を入れてきることになります その時、経糸を充分に緩ませます 張った状態で鋏を入れると、反動で経糸が筬、綜絖から抜けてしまいます 一握りずつゆっくりと鋏を入れ、切ったらすぐに筬の手前で結わえます そして、また新たに男巻布のロット棒に経糸を結び付ける作業をします
大管でも小管でも、準備には多めに糸巻きをするために織り終い後に糸が余ることは必ずあります
このままの状態で保存しておいても構いませんが、毎回残った糸をそのままにしておくと道具が足りなくなります
こうした時、糸車のつもに紙を巻いて残った糸を移して保存します この紙はカレンダー紙のようにしっかりしたものが巻きやすいです 大管の場合、1本に残った量が多い時はそのまま保存した方が後日使用する時には便利ですが、複数本の同じ糸をそのままにしておくことも大管が足りなくなった時には困ります
大管や小管から紙の棒に巻き替えるやり方は、細い糸に向いています ただ、あまり長期間紙に巻いたままにしておくと、紙自体が折れて糸の再利用の意味がなくなります 早めに使い切る方が適切です
経糸や緯糸の残り糸がウール糸の場合、玉巻き器で巻いて保存します 自在に取り付けられる既製品ですから、場所を選ばず便利です この玉巻き器はウール糸以外に使用すると玉が崩れることがあります 太い絹糸や綿糸を玉巻き器で巻いた時は、芯に紙を丸めて挿しておくと型くずれしにくくなります 細い糸を玉巻き器で巻くと絡みやすくなり、次の機会に使用できなくなることが多いですから避けます
そうして使い終わった糸の収納は、次回のために丁寧に分けておきます 糸の種類別、生成糸と染色済みの糸など、自分でわかりやすい分類方法を決めておくと便利です また、同じ糸で同じ色に染めたものは一緒に保存しておく方が無駄がありません
糸には衣類と同様の虫がつきます 糸を食べた虫がコートやセーターなどの衣類についたり、また逆のこともあります 収納する際には季節を問わず必ず防虫剤を入れます
織り見本と同じく、染めた糸の見本は染織をする上で大切な宝物です 使用した糸の実物を見るだけで色や糸の質感がわかります
色糸見本の作り方は、その人が何を求めているかによっても違います 染料別に保存する 赤系統やモノトーンといったような色に重きをおく 制作順に記録する など… 自家製のファイルを作成するもの便利です
必ず記入したいことは、染めた年月日、染料の種類と色の名前、パーセンテージ、そして、糸の実物です
その人だけの記入の方法、自分だけの制作の記録ですから、他人にはわかりづらくとも構わないと思います
要は本人の備忘録です