HARU

HARU 晴織物倶楽部


TOP | 教室 | 倶楽部について

HARUの織物制作「綿の格子の着尺を織る」

60/2綿糸

着物が好きで、着尺を織ることが心地よくて、ここのところ着尺が制作を続いています。
自分で織った着尺を仕立てて着て、布の良し悪しを肌で感じることも実感しました。
実際に身に付けると、何が足りないのかわかります。特に織布の硬さ柔らかさは着てみないとわからないことが多く、いろいろと反省が出てきます。
それとは別に、着物を着ていると気持ちが楽になります。また、体が芯から温まります。自分で着付けると、帯の苦しさはあまりありません。もっとも半幅帯ばかりですが。
近い将来、着物を普段着にして春夏秋冬を過ごしたい、その気持ちは持ち続けています。

四季のうちで、着物がしんどい時期はいつでしょうか。
私は「夏」です。東京は、春が過ぎるとすぐに夏になる慌ただしい季節の変化です。昔のように、四季の移ろいを感じながら着物を選ぶことが難しくなっています。
絽や紗、上布などの夏の着物もありますが、よそ行きで上物の感があります。浴衣は夏の着物の代表的なものですが、お祭りのイメージがあるのと昼間に着る着物ではないという方もいます。(元々浴衣は湯上りに着た由来から来ています。)綿の着物で久留米絣の着物を持っていますが、地厚で夏の着物という感じではありません。
学生時代に着尺を織る手始めに、30/2の経糸、16/1の緯糸で2反織りました。紡績綿糸ですが、35羽の丸羽の扱いやすさや合成藍の染まり付きの良さが好きで、卒業後も同じ番手の綿糸で5反ほど織りました。
学生時代に織った綿の着物のうちの一つを気に入っていて、今でも着ています。季節が終わるたびに洗濯機で洗って、日陰干しをして、布団の間に挟んで寝押しをして、大切にしてきましたが、随分くたびれてきました。


学生時代に織った着物

この学生時代に織った着物は、茨城県にあった紺屋さんで染めた藍の糸です。時間の経過と共に藍の色も穏やかになりました。
藍の着物は着こなしが難しく、顔が暗くなりがちなのですが、この着物はそれを感じさせません。藍を建てる人によって色合いも違ってくるのかもしれないし、年月の経過が藍を落ち着かせたのかもしれません。
夏用にもう1着自分のための着物が欲しいな、と思い、糸の押入れから久しぶりに30/2の綿糸を取り出しました。
長く綿糸30/2は手にしてなく、自分のための着物を織ることも久しぶりです。
手にした綛糸は30/2にしては細いな、という感触でした。試しに35羽の1目に2本通して見ても糸の隙間が大きく、やはり細い糸です。


麻糸
*写真の糸は40/2の麻リネン(左)と
   40/2麻ラミー(右)を使っています。

野々垣商店さんのご厚意で作っていただいた綿糸の見本と比べて、当時教室に通われていた綿糸に詳しいSさんに聞いてみました。
Sさんは、綿糸80/2を頻繁に使われている方です。長年草木染めや織物に親しんでいらして見聞が広く、私から伺うこともたびたびです。
私の問いかけに、Sさんは野々垣商店さんの糸見本と押入れの糸を引っ掛けて交差させました。こうすると、番手のわからない糸が同じ糸かを確認できるのだと教わりました。
「60/2だと思いますよ。」
Sさんは言いました。
今まで、紡績綿糸で扱ったことがある1番細い糸は40/2です。染織を始めて間もない頃、糸問屋さんにじかに買い物をした時に、30/2と勘違いして40/2を購入して、そのまま30/2と思って織ったことがありました。織り上がった織布がいつもよりも薄いので、じっくりと30/2の糸と比べてみると、ほんの一回り細いことに気づきました。うっかりも相当ですが、それでも特に支障なく織ることができたことを覚えています。
そんな間の抜けた記憶から、この60/2で着物を織ったら薄手のものになるかしらん?と思いました。40/2の経糸でも、織り上がりに薄さを感じたくらいです。
30/2の経糸、16/1の緯糸で織った着尺は、着古した今だからこそくたびれて薄く着やすくなっていますが、当初は厚手な感がありました。打ち込み加減が強かったせいもあると思います。単(ひとえ)で着るので地厚でもいいのですが、浴衣ほどではなくとも、もう少し軽い感触の着物が欲しいので、いっそこの糸で織ってみようか、と本気の虫が湧き出しました。
改めて押入れの60/2綿糸の量を確かめると、2kgほどはあります。すべて未精練糸です。自分で購入した覚えはなく、染織に関わった方からの譲渡の糸だと思います。
うちに来る以前も来てからも、使われることも目に触れることもなく、ずっと眠っていた60/2綿糸に、ありがたくも切ない気持ちになってしまいました。
染織に携わる者にとって、糸は「宝」です。その宝と、もっと心を込めて付き合っていかないといけないな、と反省しました。

計画

計画を立てるために、以前の綿の着尺の記録を探しましたが、詳しく書かれていないのであてにはならず、結局初めてのつもりで計画しました。
今はかなり綿密に記録していますが、こうした癖をつけるようになったのは個展活動を始めるようになってからで、同じ作品を織ることがあるかもしれないという事情からです。記録することの大切さを、改めて実感しました。

今回の綿の着尺の織計画です。

筬)
50羽/丸羽
幅)
10.6寸
長さ)
12.5m ≒ 33尺
全本数)
50本 × 2 = 100本 × 10.6寸 = 1060本
整経長)
12.5m × 10% = 1.25m
12.5m + 1.25m = 13.75m
13.75m + 0.2m + 0.5m = 14.45m → 14.5m

筬を決めるにあたって、60/2の糸を鯨寸間40羽、45羽、50羽の丸羽に通してみました。30/2の時は35羽の丸羽で十分でしたが、やはり半分細いので50羽か60羽が相当です。どちらにしようかと思いましたが、馴染みのある50羽の丸羽に決めました。

紬の着尺の織幅の織縮みは3%で計算しますが、綿糸は絹よりも伸縮の度合いが大きいので、倍の6%に見込みました。
着尺は、出来上がりに1尺は必要ですから、1尺 = 10寸 × 6% = 0.6寸
0.6寸の織縮み分を織幅に足して、幅は10.6寸とします。

長さは、紬の着尺は柄合わせや余剰分を長く取りたい気持ちもあり、織り上がりに37尺、約14mは見込みますが、今回は浴衣の仕立てにお願いしたいので、余剰分は取らずに12.5m、約33尺にしました。

以上が決まり、整経の長さを算出します。
綿は絹よりも織縮みが大きいことは幅のところで触れましたが、長さにも織縮みが出ます。幅よりも大きく縮みます。その縮み分を10%にしました。これは、60/2に限らず綿糸で織る時は織縮み分に10%を想定しているからです。
必要な長さ12.5mの10%ですので、 12.5m × 10% = 1.25m が織縮み分になります。
12.5m + 1.25m = 13.75m  これは実際に織る必要がある長さになります。
今回は糸を先に決めて意匠が後になっているために、どのような柄ゆきにするか未設定ですので、試し織分として0.2mを足します。
さらに、捨て分として0.5mを追加します。 13.75m + 0.2m + 0.5m = 14.45m
14.45m ≒ 14.5m として整経の長さとします。

12.5m織るために必要な糸だけを精練するために経糸の総全長を計算します。
経糸本数 × 整経の長さで求めます。

経糸総全長)
1060本 × 14.5m = 15370m

60/2の1gあたりの長さを計算して、精練に必要な重さを求めます。

綿糸の番手 = 450gある糸の長さ(x)÷ 750m の方程式に60/2を当てはめます。
60/2 = 450x ÷ 750
30 = 450x ÷ 750
450x = 750 × 30
   = 22500
 x = 22500 ÷ 450
 x = 50
1g = 50m

以上の計算で、60/2綿糸は1g = 50m になります。

必要な重さ)
経糸総全長 ÷ 1gあたりの長さ(m)
15370m ÷ 50m = 307.4g

整経14.5mに必要な重さは、307.4gとなります。

未精練の糸は2kgほどあります。1綛は約105gですので、 307.4g ÷ 105g = 2.927… となりますので、約3綛で足ります。 ですが、計算通りに3綛と決めるにはややゆとりのない数字です。 また、どういう柄ゆきにするかも決めていなく、どんな色を何綛染めるかも決めていない段階です。 精練は、念のために5綛することにします。

*綿糸の必要量の計算方法は、「織物の工程・綿糸の計算方法」をご参照ください。
*精練の方法は、「糸染めの工程・精練 綿糸の精練」をご参照ください。

意匠

いつもは意匠(デザイン)を最初に描きます。イメージとして着物の形の意匠図を描き、それから着尺幅の実寸大の作図をしてから、糸の計算などを行います。
今回は、60/2綿糸を使って夏に向く着物が欲しいという目的が先でしたので、意匠は後になりました。
色もまだ決めていません。
冒頭の項で触れたSさんは、親しい方たちと藍染のサークルに参加なさっていて、すくも藍を建てて糸を染めていらっしゃいます。
織物倶楽部の教室のお昼時の会話の中で、私や同じ曜日の方たちに「糸を染めてもいいですよ、」とおっしゃってくださいました。
私自身は、本藍は建てたことはありません。染料店で売られている簡単に染められる藍染セットは昔よく使いました。ソーダ灰とハイドロサルファイトを助剤に使い、お手軽ですが、それなりに藍らしい香りや色も出せました。
一時期、この藍染セットに凝りましたが、本藍の色に比べて頼りなさが感じられるようになり遠ざかりました。

お気に入りの学生時代の藍の着物のことが頭にあったので、Sさんのご好意に甘えて2綛を藍で染めてもらうことにしました。藍の濃度はあまり濃くはならないとのことでしたので、上から黄色をかけて緑色のしようかな、とお伝えました。
しばらくして、Sさんから藍の糸を受け取りました。しっとりした藍の色に染まり、久しぶりに藍らしい色を手にしたように思いました。
2綛の藍の糸を手にして、意匠をきちんと描きます。

ずっと絣が好きで、折を見ては続けているのですが、それ以外になかなか煮え切らなかった好きな柄に格子があります。特に、翁格子が好きです。
翁格子は、太い格子と細い格子が細かく重なっている柄です。経縞と緯縞が、均等なバランスで格子に交わって美しいものです。
「翁」の意味は、太い格子が年寄り、細い格子が孫、細い格子が多く入っている柄が多いことから、子孫繁栄を意味するともいわれます。
あるいは、均等でなくともよく、シンメトリーが条件というわけではないようです。
織物の柄ゆき全般に言えることですが、身につけた時にひとの体を美しく魅せるバランスが大切だと思います。経縞の着物は、シュッと粋に見せます。緯段の着物は、仕立て方で華やかに展開できます。絣柄は遊び心を感じさせて、普段着にはもってこいです。
格子柄は、一番考え込みます。
格子柄は、若い時分には着るにはちょっと手が出しにくかったように思います。今の人間にありがちな体型の変化、昔の女性よりも体の凹凸が大きいので、格子の着物が歪んで見えるように思っていたからです。小さな格子なら良かったかもしれませんが。お蔭様で私も中年を過ぎ、体型も緩やかになってきたようです。
自分のための着物を織る目的なので、自分なりの翁格子を織ってみたいと思います。


経糸の配列を描く

経糸の配列を描きます。
気持ちの向くまま、色鉛筆で経糸の線を引いていきます。使う色は、青、緑、赤、茶色。最初の色のイメージで鯨尺方眼紙に線を描きます。
描いているうちに、縞と縞の間の良さ、悪さを消したり追加したりして訂正していきます。
私は手作業で実物大に視覚化していく方がわかりいい質なので、色鉛筆を重宝しています。時間はかかりますが、その方が自分が考えている以外の何かが浮き上がってくるような気がします。
私には、この作業が一番楽しい時間です。
地色は白にしようと思っていましたが、白地に格子柄は浮いた感じになりそうなので、薄い黄色にします。
染めていただいた藍。2綛のうち1綛は緑にして使います。緑はできるだけ明るい色調が良いかな、と想像します。
最初、赤と茶色を使おうと思いましたが、色鉛筆で線を下書きしているうちにくどさを感じるようになり、赤茶色のみにします。
色鉛筆の色と染料の色は違いますから、そこはまた実技に入った時に考え直していきます。
モチーフは翁格子なので、不規則なようでも規則的な縞の繰り返しが大切です。ざっくりと10.6寸の中で5つのリピートをこしらえてみます
実際に描いた意匠図です。塗っていない白いところは薄い黄色地です。
本来人様にお見せするものではないので、消したり加えたりして、かなり汚くなっています。写真の意匠図は、糸の本数を決めた後のものです。


経糸の配列

いつもは画像に描くことはないのですが、わかりにくいので経糸の配列をコンピュータの色で描いてみました。


経糸の配列を描く

それぞれの幅と本数を決めます。
あらかじめ本数を意識して意匠を考えることもありますが、今回はまるっきりの線引き作業の末の意匠決定ですから、全本数の1060本を越えないように設定していきます。
縞の1リピートは2寸なので、 50羽 × 2(丸羽) × 2寸 = 200本 となり、200本の中で各縞の本数を決めていきます。
鯨尺方眼紙に50羽の筬の目を写します。(写真下部)


経糸の本数を決める

縞の幅に合わせて筬目を数えます。数えた筬目からそのまま本数を決めてもいいのですが、縞の強弱をつけたいので、描いた線そのままではなく、若干増やしたり減らしたりします。
地の10の縞と各色の太細合わせた縞が10で、合計20の縞が2寸200本の中に入ります。
必ず偶数に収めるのは、整経方法が輪整経のためです。
強く見せたい縞は、赤茶の2寸、20本10目の縞。藍の0.1寸、10本5目の縞。緑の縞は、3目ずつ均等な印象で合間合間に入る、という形にします。
2寸200本の縞のリピートが5パターンあるので、 200本 × 5パターン = 1000本 となり、全本数1060本には60本足りません。
足りない分は、織耳の両端に分けます。地の薄黄色を0.3寸30本ずつ左右に分けて、本数の調整をします。
あれこれいじくり回し、決定した縞の本数です。

翁格子とは随分趣が違いますが、これくらいの間(ま)が心地よいと再確認しました。

経糸の染め

緑色の染め

天然染料の糸染めで、緑色はひとつの染料では染まらない色だと言われています。
現在では葉緑素から緑色を染める染料はありますが、古来、緑色は藍に黄色の染料を重ねて染める方法が、一番堅牢度が高く、確実な方法とされています。黄色の染料は、特に決まりはないようです。
ずっと以前に藍染セットを楽しんでいた時も、藍に黄色を重ねて緑色を染めました。一度に緑色を求めるだけなら合成染料の方が便利ですが、藍に黄色い植物染料を重ねると合成染料では出せない深い色に染まります。
Sさんに染めてもらった藍のひと綛を、まず染めの手始めにします。
落ち着いた堅牢度の高い黄色が欲しいので、絹糸でよく使用していた楊梅皮(ヤマモモ)を煎じて染めることにします。絹糸だと穏やかな黄色になるので、藍にも相性が良いかな、と思います。
絹糸は動物性繊維なので、媒染は塩基性アルミの方が結び付きが強くなります。そのため、媒染剤は酢酸アルミを使用しますが、綿糸は非塩基性のカリ明礬(ミョウバン)を使います。酢酸アルミでも媒染できますが、植物繊維のアルミ媒染はカリ明礬に使い分けています。

カリ明礬は水に溶けにくいので、あらかじめ小さめのホーローボウルに6gのカリ明礬と適量の水を入れ、弱火にかけて完全に溶かしておきます。
藍の60/2綿糸に梱包用ひもを緩くつけます。糸を水に浸して湿らせている間に、寸胴タンクに2ℓの温湯を入れ、溶かしたカリ明礬を加えてよく撹拌します。
湿らせた藍の綿糸を脱水し、よくはたいてから、カリ明礬の媒染液に入れます。火をつけて、中火に保ちます。
綛を輪のまま手に乗せ、タンクの中でゆっくりと右手左手と差し替えながら、縦方向に回すように繰っていきます。そうすると綛が乱れません。60℃前後に温度が上がったら、繰る作業を止めます。タンクの底に綛の輪を広げるようにして沸騰を待ちます。その間、無理のない範囲で梱包用ひもをつまんで綛をタンクの底から返してやります。タンクの底から温度は上がりますから、なるべく均等に媒染させるためです。
通常は沸騰したらそのまま30分煮沸しますが、藍は熱に弱い性質を持っているので、沸騰した直後に火を止めて放冷にかかります。放冷は、約1日です。
媒染の放冷をしている間に、楊梅皮の煎じ液を作ります。
ボウルに楊梅皮と楊梅皮40gの7倍の水を注ぎ、火にかけます。40g ×7 = 280cc の水は少量ですぐに蒸発してしまいますから、計算よりはかなり多めに水を加えます。沸騰後30分煎じてから火を止め、濾しザルに濾し布(不織布のものが便利)を張って、その中に煎じた楊梅皮を注ぎます。ザルに固定された濾し布に楊梅皮のオリがたまり、ボウルに濾された茶色い煎じ液が滴り落ちます。これが1番煎じになります。
濾し布には楊梅皮は落とさず、ボウルに残したままにします。煎じた楊梅皮に当初の重さの5倍の水を入れ、再び火にかけます。やはり水量が少量なので、多めに入れます。同じく沸騰後30分煮沸し、1番煎じ液を入れたボウルに濾し布で濾して1番煎じ+2番煎じで一緒にします。
さらに、同じことを繰り返し、3番煎じ液を煮出して、1番煎じ + 2番煎じ + 3番煎じを一緒にします。
1番煎じの水量が楊梅皮の重さの7倍に対し、2番煎じ3番煎じが5倍なのは乾燥材の楊梅皮自体が水を吸う分が含まれているからです。
そのまま動かさずに1晩置いて、染めは翌日まで待ちます。
前日の煎じ液のボウルの底には楊梅皮のオリが沈んでいますから、ホーロービーカーに濾し布を張って煎じ液の上澄み液だけを注ぎます。底に溜まったオリは濾し布にも入れないようにします。(目が詰まるから)
楊梅皮を煎じる時に沸騰後の蒸発を防ぐため染料の量に対し水量を多めにしたので、ホーロービーカーに濾した煎じ液の液量を含めて、糸の重さの20倍の染浴を作ります。染浴の量は2ℓですから、煎じ液に温湯を足して寸胴タンクに用意します。
前日媒染した藍の糸を、アンモニア処理をします。アンモニア処理はなさらない方も多いのですが、媒染剤が確実に糸に固着して堅牢度が良くなるので、私は必ずするようにしています。(先媒染の時のみ)
ボウルに1ℓの水に4ccのアンモニア水を入れて、よく撹拌します。媒染した糸を固く絞ります。よくはたいて、アンモニア水を薄めた水の中に入れ、よく揉み込んでから15分そのまま置きます。15分後、1回程度水を取り替えるくらいの軽い水洗いをして、脱水機で水を切ります。アンモニア臭と白濁した水が消える程度の洗い方で充分です。
濾しを繰り返した楊梅皮の染浴は、透き通った飴色をしています。その中に、アンモニア処理をした藍の糸を入れて火をつけます。
媒染の時と同じように、綛を輪のまま手に乗せて、タンクの中で右手左手と縦方向にゆっくり差し替えながら繰っていきます。藍に黄色が染まりつく瞬間だ、と思いつつ、次第に熱くなる染浴と糸を見ていましたが、うーん、あまり変わらない?
繰れないほど熱くなったので、タンクの中に綛を入れます。そのまま沸騰させて、翌日まで放冷することにします。
どうぞ、多少でも緑味がついていますように。
思うようにいかないのが染め織りというもので、翌日糸洗いをして、脱水して、乾かしても、やはり緑色には程遠い藍の糸のままです。いや、変化がないわけではなく、多少は藍の上に色が乗ってはいます。が、黄色が染まっているというよりは茶色っぽい感じがします。
そうか、と納得しました。素材の違いのせいだろうと。
絹糸だと穏やかな黄色に染まるのですが、綿糸では染まり具合が微妙に違います。それに、同じパーセンテージでも綿糸は絹糸の半分から2/3くらいの濃さで抑え気味になります。だから悪いのではなく、そうしたものだといことを忘れていました。何より、楊梅皮は茶色味のある黄色でした。

楊梅皮では藍が緑になりにくいとしたら、別の染料を選ばねばなりません。鮮やかな黄色で堅牢度の強い染料といえば刈安かな、と思います。藍に刈安を重ねて緑に染めるのは、割に聞くことだな、と今更思い出しました。
先媒染にこだわらず、別の方法で染めてみようかと思います。
多くの場合、天然染料は 「先媒染 → 染色 → 洗い」または、「染色 → 後媒染 → 洗い」の行程を1度、あるいは複数回繰り返します。1度目の楊梅皮の時は先媒染でした。それを何回も繰り返せばもっと濃くなるかもしれませんが、色味が違うので、染料を変えることと染める行程も変えてみたいと思います。
「染色 → 媒染 → 染色 → 洗い」をひとつの行程にしてみます。
これは、後媒染と先媒染を同時に行うようなものです。煎じた刈安の染浴で通常の染めを行い放冷、後媒染をしてまた放冷。さらに最初の刈安の染浴の残液に浸けて煮沸してまた放冷。その後、水洗いをするという行程です。
先媒染でも後媒染でも、水洗いをした糸にはそれでも多少の染料や媒染剤が落ち切れずに付着しています。染色をして媒染をした時に、糸に付着した媒染剤で再び染色をするという方法です。糸に金属塩を残さないために、この方法で染めることはよくあります。

楊梅皮を重ねた藍の糸を水に湿潤させておきます。
刈安100gをボウルに入れて、ひたひた程度の水で煎じます。沸騰後30分煮沸し、ザルで寸胴タンクに漉します。煎じ液を足して糸の重さの20倍の染浴にします。
湿らせておいた藍の糸を脱水して、寸胴タンクに入れます。タンクを火にかけて1度目の楊梅皮の時と同様、タンクの中でゆっくりと縦方向に回すように繰っていきます。糸に触れられないくらい熱くなったら、綛を広げてタンクに沈めます。そのまま沸騰させ、30分煮沸します。その後火を止め、1日放冷します。
翌日、別の寸胴タンクに媒染液を作ります。タンクに糸の重さの20倍の温湯2ℓを入れます。7gのカリ明礬をホーローのボウルに入れ、水を注いで火にかけて完全に溶かします。溶かしたカリ明礬をタンクに注ぎ、撹拌します。
1日放冷した刈安で染めた糸を、染液がこぼれないように静かに固く絞ります。よくはたいて、媒染液のタンクに入れ、染めた時のように繰ります。熱くなったら綛を広げてタンクに沈ませ、沸騰後30分煮沸します。その後、火を止めて1日放冷します。
3日目、前日綛を絞った刈安の染浴の残液のタンクを再び出します。あらかじめ弱火にかけて暖めておきます。
媒染した糸を固く絞り、よくはたいて刈安の残液に入れて、三たび同じように糸を繰ります。また沸騰後30分煮沸し、1日放冷します。
4日目、残液の中の糸を取り出し、水洗いをします。一行程で4日かかりましたが、今度は確実に緑色になりかかっています。振り洗いをしている段階で、すでにそれが見えてきました。が、まだ乾かないとわかりません。それに、色はほんの少しの時間でも退色することはよくあります。
我慢して待って、それでも2週間待ってみましたが、やはりまだ黄色味が足りないように感じます。
刈安 → カリ明礬媒染 → 刈安残液の工程を再び行うことにします。
刈安、カリ明礬の濃度、染めと媒染にかける時間も、同じに染めます。


経糸の染め

4日後、思い描いていた緑色よりも青みが強いものの、これで良いかなぁと思う色に染まりました。右が藍の綿糸、左が藍の上に楊梅皮 → 刈安 → 刈安で黄色を重ねた綿糸です。


茶色の染め

茶色は、初めからタンガラで染めようと決めていました。明るい茶色がいいと思っていたので、以前経糸緯糸をすべてタンガラのみで織った紬の時、堅牢度が高く、明るい茶色に染まったことが嬉しかったからです。
その時と同じ工程で60/2綿糸を染めてみます。

ボウルに入れたタンガラ50gに、ひたひたよりやや多めの水を入れて、弱火にかけます。沸騰後30分煮出し、濾しザルにかぶせた濾し布で濾します。同じタンガラのボウルに再び水を入れ、弱火にかけて沸騰後30分煮出して、1番煎じと同じ液に濾して一緒にします。三度同じタンガラを煮出し、1番から3番煎じまでのタンガラ液を1番寝かせて澱を沈ませます。
翌日、寝かせたタンガラを濾し布で濾して寸胴タンクに移し、煎じ液に糸の重さの20倍の温湯を足して染浴にします。
湿らせておいた綿糸60/2を脱水し、タンガラの染浴に入れます。火をつけてゆっくり繰りながら昇温させて、熱くなったら綛をタンクに沈めて沸騰を待ちます。沸騰後30分そのまま煮沸し、火を止めて1日放冷します。
翌日、別の寸胴タンクに糸の重さの20倍の温湯を注ぎ、水で溶いた3gの酢酸銅をタンクに注ぎます。これが媒染液になります。酢酸銅は劇物ですので、取り扱いは注意してください。
前日に染めた綿糸を手で固く絞り、よくはたきます。
念のため、染めたタンガラの染浴は捨てずに残しておきます。
ゴム手袋をして、糸を酢酸銅のタンクに入れて火をつけます。丁寧に繰りながら、タンガラの色を出していきます。ゴム手袋でも熱くなってきたら繰りを止めて、媒染液に糸を沈めて沸騰させ、30分煮沸します。30分後火を止めて、翌日まで放冷します。
次の日、完全に冷めた糸を絞り、水洗いをします。酢酸銅は酸の臭いがきついことと強い金属塩なので、何度も水を変えて洗い流します。色が落ちなくなったら脱水をして干しますが、それでもツーンとした酢酸の臭いが残ります。ですので、乾いた後も干したまま風に通して臭いを飛ばします。
乾いたタンガラの色は思ったより薄い茶色です。色味も赤茶を想像していたのですが、やや赤みのある薄茶色の感じです。そこも素材の違いの染まり方を実感しました。
赤茶ではないにせよ、もう少し濃くしたいと思い、もう一度タンガラの銅媒染を行います。
3日後、干しておいたタンガラの綛糸を水に湿潤させておきます。
染めて取り置いていたタンガラの残液に、脱水した綛糸を入れて火にかけます。今までと同じようにタンクの中で繰り、手が熱くなったら静かにタンクに沈ませて沸騰を待ちます。沸騰後30分煮沸し、その後火を止めて1日放冷します。
翌日、糸の重さの1.5%の酢酸銅1.5gを水で溶きます。2度目の重ねの酢酸銅の割合が1/2なのは、タンガラが残液だからです。1度目の染めで糸の吸収された分を媒染剤でも差し引きます。
溶いた酢酸銅を2ℓの温湯を入れた寸胴タンクに入れ、放冷して手で絞った糸を繰入れます。徐々に温度を上げ、沸騰後30分煮沸し、1日放冷します。
翌日、1度目と同じように水洗いをします。余分な色が落ちるまで洗い、脱水後干します。


経糸の染め

絹で染めた赤茶ではないものの、しっとりと落ち着いた茶色になったようです。
染めは思うようにならないことが多いものですが、そこに表れた色を活かす面白さ楽しさがあります。
この色で茶色は決定です。


薄黄色の染め

地色になる薄黄色の染めは、本当に目立たない程度の白に近い黄色にしたいと思います。
藍の糸を緑にしようと最初に楊梅皮(ヤマモモ)を使いましたが、使い勝手もよく堅牢度も高いことから、私には出番の多い染料です。
薄黄色にも、楊梅皮を使いたいと思います。
地糸の量ですが、茶色、緑色、藍色を除いた糸本数の合計になります。
1リピート左から、8 + 8 + 14 + 10 + 8 + 14 + 10 + 18 + 18 + 20 = 128本
5リピートあるので、128 × 5 = 640本
1リピートの色の縞と地糸の合計は200本で、5リピートですから、200 × 5 = 1000本
経糸全本数が1060本なので、1060 - 1000 = 60本
この60本は、織耳の地糸です。
なので、640本 + 60本 = 700本 これが、地糸となる薄黄色の本数です。
経糸の整経長は14.5mです。
楊梅皮で染める糸の全長は、700本 × 14.5m = 10150m
60/2の綿糸の1gあたりの長さは50mですから、10150m ÷ 50m = 203g と算出できます。
60/2綿糸の1綛の重さは105gですので、2綛あれば足ります。

カリ明礬媒染、楊梅皮の染めの方法は、藍の糸を緑にする時の1番最初の染め方と同じです。
2綛210gで媒染液と染浴の容量が多くなるため、寸胴タンクは大きい方が糸が絡まず均等に染められます。
糸の容量に対し、楊梅皮の量が少ないのは5%と淡色だからです。染料の量が少ないので、煎じる際には干上がらないように注意して水の追加をします。
楊梅皮の煎じ液は澱が沈むので、時間がかかりますが、3番煎じまで煮出した後必ず一晩置いて、澱を沈めて濾します。そうすることで、澄んだ色を染めることができます。


経糸の染め

今回の楊梅皮は1度のみの染めで重ね染めはしません。格子の柄を生かすための薄さでいいと思います。

糸巻きと整経

経糸の本数を決める

大管の糸巻きの計算と整経の計算は、一緒に行うことがあります。
所有の大管立ては、大管が32本立てられます。今回の経糸の縞は本数が入り組んでいて、縞の配列に忠実に大管を立てることは無理です。
こういう時には、色と本数の同類項を探して同じ色でも別々に巻いて別に大管を立てる方法を取っています。
意匠の項で記した1リピートの本数を再掲載します。

この配列の中での同類項は、緑色の6本が3ヶ所、薄黄色の8本が3ヶ所、藍色の2本が2か所、織耳の30本が2ヶ所あるのみです。
他は、薄黄色の地色の中で気ままのように本数が独立しています。面倒な縞ですが、動きのある縞柄を描くとよくあることです。
面倒さは同じですから、どうすれば整経台の上でスムーズに整経ができるかを、まず考えます。
大管を使用する整経の場合、向かって左側に立っている大管が整経台のあぜの重なりの下側になります。意匠図の左から見て、最初は織端の薄色の30本から始まり、次に藍色の2本、薄黄色の8本、茶色の2本…というふうに重なっていきます。こうした配列を崩したくない縞の時は、図の左側から始めると考えやすいです。
今回、薄黄色の地糸の大管を2種類に分けることにします。薄黄色の8本の経糸のコーナーとその他の薄黄色のコーナーを別にします。8本の経糸の大管本数は、8 ÷ 2 = 4本 です。輪整経の往復で1回の整経と数えるので、2で割ります。その他の薄黄色の経糸は、藍色、茶色、緑色の本数の後に決めます
以下、藍色、茶色の2本の縞は計算から外します。
藍色の経糸は、1ヶ所で10本です。10 ÷ 2 = 5本で、大管は5本にします。
茶色の経糸は、10本と太い20本です。どちらも10で割り切れますので、10 ÷ 2 = 5本とします。細い方は5本の大管で1回の整経、太い方は2回の整経で糸本数を揃えられます。
緑色の経糸はすべて6本ですから、6 ÷ 2 = 3本の大管にします。
薄黄色の大管が4本、藍色が5本、茶色が5本、緑色が3本に決めました。合計で17本です。
大管立てには32本の大管が立てられると言いましたが、奇数の大管本数の時、意匠に不都合がなければ、上段を使い、下段は空けておきます。整経の際に経糸を取り損なうミスを防ぐためです。そのため、5本ないしは3本の大管の際は、大管立ての1ヶ所は数に入れないでおきます。ですので、5本の大管の時は6本のうち1つ空けとし、3本の大管の時は4本のうち1つ空けと考えます。
その上でもう一度合計を数えると、20本の大管が決まったことになります。32 - 20 = 12本空いたことになります。8本以外の薄黄色の経糸の本数を見ると、30本(織耳)、14本、10本、14本、10本、18本、18本、20本、30本(織耳)とあります。5の倍数が3ヶ所あるので、空いた12本をすべて薄黄色の大管に使うよりも、10本に狭めた方が整経の往復がやりやすいのではないかと思います。8本以外の薄黄色の大管は10本に決めます。14本、18本の経糸のついては後述します。
作業の都合上、色に番号をつけます。

各色の全本数と糸全長を計算します。各色の本数を計算し、整経長(14.5m)を掛けます。

藍色 a
(10本 × 5ヶ所)+(2本×10ヶ所)= 70本      
70 ×14.5m = 1015m
緑色 b
6本 ×15ヶ所 = 90本      
90 × 14.5m = 1305m
茶色 c
(20本 ×5ヶ所)+(10本 × 5ヶ所)+(2本 × 5ヶ所)+(8本 × 5ヶ所)= 200本      
200 × 14.5m = 2900m
薄黄色 d1
(8 × 3)× 5 = 120本      
120 × 14.5m = 1740m
薄黄色 d2
(20本 × 5ヶ所)+(18本 × 10ヶ所)+(10本 × 10ヶ所)+(14本 × 10ヶ所)+(30本 ×2ヶ所)= 580本      
580 × 14.5m = 8410m

糸全長を決めた大管の本数で割ります。割り出された数字は、1本の大管に必要な長さです。

60/2綿糸の枠周は、1.33mです。これは、実際に綛かけに綛糸をかけて巻尺で測りました。
1本の大管に必要な長さを、枠周の1.33mで割ります。糸巻きに必要な回転数が計算されます。その数字をそのまま使うと誤差で足りなくなることがありますので、必ず10回転余分に足します。

こうして、整経のやり方から大管の本数を決めて、糸巻きに必要な回転数を計算します。

大管の立て方と整経

大管

糸巻きが終わり、27本の大管に糸を巻きました。


大管図

写真の大管は実際に大管立てに立てる順番で並べてますが、記号をつけるために絵にします。

左から、

d1 … a … c … d2 … b

という並びになります。
以下、意匠図の左側から整経の方法と回数を記していきます。


1.
織耳の左端の薄黄色の30本です。これはリピートに入らない経糸です。d2の大管10本を使います。
整経回数は、30 ÷(10×2)= 1.5回、1回往復して大管5本で1回追加します。(10本の大管で1往復して20本の経糸が整えられ、不足分の経糸10本を5本の大管で補うの意。)
次の縞から縞柄に入ります。


大管図

2.
8本の薄黄色の次に2本の藍色の糸が並びます。これは、d1の4本の大管と隣のaのうちの1本の大管で整経します。薄黄色は糸本数で8本、大管4本で整経1回。藍色は糸本数で2本、大管1本で1回。計5本の大管で1回の整経をします。


大管図

3.
薄黄色の8本と茶色の2本です。d1の4本の大管とcの茶色のうち1本の大管、5本の大管で10本の経糸を整経します。


2. 3. で特に注意したいのは、aの藍色、cの茶色のどの大管を使うかです。
糸巻き回数を決める際にaとcの回転数で、「1本だけ20〜30回多めに巻く」とメモしました。これは、aの藍色5本とcの茶色5本のうちの上段のみの大管を指し、d1 の4本と同時に整経をするために多めに巻きました。藍色、茶色の2本の縞の経糸全長はそれぞれの5本の中に含まれていますが、このままの回転数で特定の大管のみを使っていると、この大管だけ減ってしまい、大管5本使う際に不具合が生じます。
今回は、糸巻きの最中にそのことに気づいて、後から追加した経緯があります。「20〜30回多めに巻く」という大雑把さではなく、あらかじめ糸2本の縞の全長を特定の大管1本に足しておき、きちんと計算した方が正解です。


大管図

4.
14本の薄黄色の縞は、d2の大管を使います。d2のコーナーの大管は10本ありますが、糸本数 14 ÷ 2 = 7本 の大管で整経します。10本の大管のうちどの大管を使うかですが、その次の縞が緑色の6本ですから、bの緑の3本の大管も一緒に整経します。なので、緑色に近い7本の大管を選んで整経するとやりやすいです。


大管図

5.
10本の薄黄色の縞です。これはd2の10本の大管のうちの5本の大管を使います。ここもどの大管を使うかですが、前の14本の縞の時に緑色の縞に近い大管(右寄りの方)を使ったので、今度は左寄りの5本を使います。だぶっている大管がありますが、全体の糸全長で補っているので大丈夫だと思います。
限りある大管で違う糸本数を整経する時には、できるだけ等分に大管の糸が減っていく方が、最後まで均等に近い形で進められます。


大管図

6.
茶色の縞は10本で、cの大管5本で整経します。10 ÷(5×2)= 1回 の整経です。


7.
薄黄色の8本と藍色の1本は、2.の縞の整経と同じで、d1の4本とaの上段のみの1本で1回の整経です。

8.
14本の薄黄色と6本の緑色も、4.と同じでd2の右寄りの7本とbの3本で1回整経します。

9.
薄黄色の10本は、5.と同じです。d2の左寄りの5本の大管で1回整経します。


大管図

10.
藍色の10本の縞は、aの5本の大管で1回整経します。


大管図

11.
18本の薄黄色の縞は、d2のうち9本の大管を使って1回整経します。10本のうちどの大管1本を休ませるかですが、薄黄色の縞で14本と10本で重なっている大管がありますから、それを除くと均等に減らせます。


大管図

12.
8本の茶色の縞は、cの5本のうちの4本で1回整経します。上段だけの大管を休ませるのが適当です。


大管図

13.
18本の薄黄色の縞はd2の10本のうちの9本の大管を使い、次の緑色の6本の縞のbの3本の大管と一緒に整経します。この時も、bに近い右寄りの大管9本を選ぶ方がやりやすです。


14.
20本の薄黄色の縞は、d2の大管10本で1回整経します。20 ÷(10×2)= 1回となります。

15.
茶色の20本の縞は、cの5本の大管で2回整経します。20 ÷(5×2)= 2回 の計算になります

以上が1リピートの整経の手順です。
この手順を5回繰り返し、再び織耳の薄黄色の30本になります。d2の10本の大管で2回整経し、5本の大管で1回追加します。

大管を代わる代わる使用して、15パターンの整経をやりこなすことは大変煩雑に感じられますが、32本立てられる大管立てをできる範囲で使う一つの方法と考えています。


経糸

この整経を行う際に、気をつけたいことを数点書き留めます。
休ませている大管から出ている糸はどうするのか。
必ず、その大管の下に垂らしておきます。あるいは1回1回切って結ぶ方が安心ですが、手間がかかりますし、また出番が来た時に結び直すことも手間になります。
今回の場合、5つのコーナーから糸が連なっていて、さらに1つのコーナーのうちの何本かを使うために、経糸が混乱することは大いにあります。慣れないと絡まります。
それを避けるには、大管立てと整経台の間を20cmほど空けて充分に糸の余裕を持つようにすること。
終いの(始点でもある)鉄棒(かなぼう)の折り返しは大管立て側に(外側)折り返すこと。
大管から出る糸を無理に捻らないように配慮すること、が大事だと思います。
また、大管立てに立てた大管が上段下段1列にある時はあぜは一緒に取りますが、上段のみの時は糸1本のみのあぜになります。3本のあぜを取っても差し支えないですが、50羽の丸羽の設定なので、2の倍数の方が粗筬がやりやすいと思います。
今自分はどこの縞を整経しているのか、時々わからなくなる時があるかもしれません。人の集中力はそうそう続くものでもありません。意匠図に✔︎マーク(チェックマーク)を付けて行うことも一つの方法です。

何にせよ、こうした手間のかかる整経は1日作業になってしまいます。余裕を持って時間を作りたいです。


整経が終わったばかりの整経台

整経が終わったばかりの整経台です。


整経の経糸の様子

手前味噌で恥ずかしいですが、整経の経糸の様子が一番美しいと思う時があります。

緯糸の染め

今回、緯糸の染めは経糸の整経の前にします。
通常の着尺の緯糸の染めは、少なくとも経糸の整経までは待つようにしていますが、今回は地色になる色の染めのみなので、濃度に気を使うくらいでいいかと思います。格子の柄になる藍色、緑色、茶色は、経糸の残りの60/2の糸を使用します。
経糸が60/2なので、緯糸は同じ程度の番手の単糸を、と思います。
60/2の同等の番手の単糸は、30/1になります。これは手持ちになかったので、糸屋さんから購入しました。
購入は1kgですが、どのくらいいるのか、また昔の記録をめくり直してみましたが、肝心なことが書かれていない…、本当に記録の大切さを再度実感します。
経糸の重さの60%は必要、と教わった記憶がありますが、以前綿を好んでいた時には、いつも多め多めに染めていたので、少しあてにはならないような気がします。それと、計算上の経糸の重さは307.4gで、その60%だと184.4g程度になり、1綛約100gの綿糸が2綛で足りてしまうことになります。さすがに、少なすぎない?と思います。(教室でも綿の着尺を織った方に経糸の重さの60%と伝えて足りなかったことを思い出しました。申し訳ないことをいたしました。)
結局、用心のために3綛、285gを染めることにします。

経糸の地色でもカリ明礬の媒染と楊梅皮の染めでしたが、濃度は媒染が2%染めが5%でした。緯糸は経糸よりも濃い色合いの方が織った時の色が落ち着きますから、わずかですがカリ明礬と楊梅皮の濃度を上げてみます。
単糸は双糸よりもやや濃く染まることが多いので、このくらいでも充分濃くなるのではないかと思います。
カリ明礬の媒染、楊梅皮刻みの染めの方法は、経糸の藍を緑色にする時、薄黄色の地色の染めと同じです。
楊梅皮の煎じは、3番煎じまで行います。
3綛285gで染浴が4.2ℓですので、糸が余裕を持って浸かるように寸胴タンクは大きめのものを使用します。薄い黄色はムラが見えにくいのですが、やはり均等に染めるに越したことはありません。
単糸は双糸よりも切れやすいので、染めの繰りは慎重にします。昇温したら、もう触らない程度の穏やかさでもいいと思います。
上記の媒染と楊梅皮で染めたのですが、色味がやや薄く感じられたので2週間後に同じ楊梅皮を重ねることにします。

2回目の楊梅皮刻みは、藍を染めた時と1回目の緯糸を染めた時の楊梅皮刻みを乾燥させたものを2番煎じまで煎じて染めます。楊梅皮は染浴も再利用(残液染め)できますし、煎じた後の楊梅皮を充分乾燥させて保存したものも使えます。残液の方は本染めの方にほとんどの色が染まりますから淡色になりますが(媒染の度合いによります)、煎じた楊梅皮を乾燥させたものは、同程度ではないにせよある程度の濃度に染めることができます。ただ、刻んだ染料なので粉状になっていたり漉したりした際に少なくなっているので、当初のの量よりは少なくなります。そのため、ざっくりと2回の染めの時に使用したものを2番煎じまで煎じて染めることにします。
媒染と煎じ液作りに1日、染に1日、糸洗いはその翌日。放冷に時間をかけて、ゆっくりとしたペースで染めて、ようやく今回使用する糸がすべて染まりました。

製織

整経の経糸の様子

整経から粗筬、千巻、綜絖通し、筬通しは、いつもの要領で進みます。ワイヤーヘルドは、30番の絹用を用います。筬が50羽の丸羽で糸本数が多いので、綜絖が重くなるためです。
織り付けの緯糸を入れた経糸の様子です。下の強い黄色は、昔織った時の16/1の綿糸です。


整経の経糸の様子
整経の経糸の様子

このままだと経縞です。今回の意匠は格子柄。それも、翁格子という優れもの。
経縞と同じか、やや崩しながらも同等の割合で緯縞も入るのが原則です。
緯縞は経糸に使用した糸が充分に余っていたので、緯糸にも使うつもりでした。なので、緯糸の染めは地色の楊梅皮しか染めていません。


織機

経糸を織機にかけてみて実感したことは、経縞と同等の割合で緯縞を入れていくと、うるさい感じにならないかしら?です。
薄黄色の地色の中で、一番縞の数が多いのは茶色です。茶色を経糸と同じように緯に入れていくと、ごちゃごちゃした格子になるような予感がしました。あるいは、茶色を等分に隙間なく入れることで柄ゆきが大胆になるかもしれないとも思いますが、やはりここはすっきりさせたほうが着やすいものになるのではないか。
着る予定は、夏です。浴衣のちょっとよそ行きの着物が欲しいという当初の目的があります。夏にゆとりの間(ま)のない格子柄は似合わないと思い、色数を減らすことにします。
生かすのは、藍色と緑色の縞。太い方の藍色の経縞の幅と同じ間隔を、緯の高さに設定します。藍色のほぼ真四角の格子が一番の目安になります。その中に緑色の縞がほぼ等間隔に並びます。経縞では緑色の縞は3本ありますが、太い茶色の縞を挟んだ2本の緑色の経縞の幅を、緯の高さに決めます。藍色…緑色…緑色…藍色の経縞とほぼ等間隔の高さの緯縞を入れるように設定します。藍色の格子の中に小さな緑色の格子が収まっている格子ができます。


織機

このくらいでいいかな、と思うことにします。迷うことは無駄ではないけれど、いつまでも試し織りを続けていても経糸にも限りがあります。本織りの長さが足りなくなる滑稽なこともありえますので。
経縞の幅と同じ間隔を緯の高さに設定する、と書きましたが、実際にはやや長めの高さに決めます。経糸を張っている状態と緩めた状態では、格子の形が違ってくるからです。ちょっとばかり長方形くらいに決めると、織り上がって織機から離した時にちょうどいい形になります。最初の計画で経糸の全体の織縮みを10%と設定しましたが、太い藍色の縞から縞までが2寸で、その10%の0.2寸分を余分に織るという割り出し方もあります。その数字だけでなく、自分の見た目を優先して決めるのが1番やりやすいと思います。
また、織り上がった形が正確な正方形だったとしても、視覚のせいで、横長に見えることもあります。ですから、織っている時はやや長めの格子柄風に高さを決めた方が良いかと思います。(視覚の問題なので、正確なことではありません。また、横長が悪いわけではなく、少なくとも私はそうであるという意味。)
緯糸の入れ方を決めたら、緯縞を正確に繰り返すために1リピートの目安を作ります。私がよくやるやり方は、紙テープに縞の太さと位置を書いて、布面にまち針でつける方法です。1リピートのみ書く時もありますが、2〜3リピート書いて同じ緯縞を繰り返していくことができます。今回は1リピートが比較的長いので、1リピートのみにします。


織り
織り
織り
織り
そこまで決めたら、あとは本織りのみです。 50〜60cm織ったら男巻布を外して織布を男巻に直接据え付けて、織りミスだけを気をつけて織っていきます。
織り

製織だけで、この年の7月1日に始め、終わったのは9月2日です。その間、次の紬の着尺の絣や染めと同時並行の織りでした。


織り上がり)
長さ 13.15m ≒ 34.7尺
幅  10.2寸
経の織縮み率)
捨て分を除いた実際に織った長さ → 14m(14.5m - 0.5m)
13.15m ÷ 14m= 0.939…× 100 = 96.2
100 - 96.2 = 6.1% → 綿の織縮み率 約6%
緯の織縮み率)
10.2寸 ÷ 10.6寸 = 0.962…× 100 = 96.2
100 - 96.2 = 3.8% → 綿の織縮み率 約4%
緯糸使用量)
285g(3綛染めた地色の糸量)- 70g(残った糸量)= 215g
格子分予測 40g 〜 50g
215g + 50g = 265g → 緯糸総使用量

着る

湯のしを終えたのは、織り上がった日の3、4日後、9月の初めの頃でした。
暦の上では秋ですが、暑い日が続きます。まだ綿の着物は着ることができる季節です。ですが、仕立ての世界は、すでに秋物の時期に入っています。昔気質の世の中では、季節外れの仕立ては後回しにされることがよくあります。無理にお願いしても良かったのですが、特に急ぐ理由もないので、そのまま程良い時期が来るまで箪笥に入れておきました。

翌年の初夏の頃、そろそろ浴衣の仕立てを始めるだろう季節になり、「浴衣仕立てにお願いします。」と、寸法のために自前の浴衣と一緒に持ち込んだのが5月の中頃。なかなか連絡がなく、ようやく出来上がりのメールがあったのは8月の頭でした。浴衣仕立てだからすぐに出来上がるだろうと思っていたのですが、この着尺はどう見ても浴衣ではなく綿の着尺。本当の浴衣は染物ですから、そちらの方が先になったのかもれません。
とにかく、ようやく着物の形に仕立て上りました。
浴衣のように着たいと思ったのですが、肌襦袢の上に直接着ると当たり前ですが汗が染みます。仕立て上りの着物に早速汗染みをつけてしまうのは、いささかもったいないような気がして、夏用の綿の襦袢を着て、着物として着てみました。
着たのは、9月の始め。ちょうど1年前に織り上がった頃と同じ時期でした。残暑の真ただ中、久しぶりの着物の着付けに、最初の肌襦袢の段階から汗が流れます。「うそつき襦袢」や上と下が別々の二部式の襦袢を持っていないので、汗の吸収の良い綿の肌襦袢 + (一見)風通しが良さそうな綿の透かしの襦袢 + 綿の着物 + 博多の半幅帯でなんとか我が身の形を整えて、残暑の午後の陽の下を外出しました。
…やはり、暑いです。
もはや、意地で涼しい顔をしているしかない、と歩き、地下鉄に乗り、時折帯の様子に気を留め、知人の展示会に行き、楽しみ、流れる汗を振り切るようにして、3〜4時間で帰宅しました。

あ〜、昔の人は着物しかなかったからなぁ〜、偉いよね〜、

と、皮を剥ぐように脱ぎながら、本音を口にしました。でも違うね、と直後に思い直しました。
昨今の異常な猛暑との比較はともかく、昔の人々は夏には夏の着物との付き合い方をしていたのだろうと思います。
浴衣は無論のこと、着物でも重ね着がごとく襦袢を着たりしなかったでしょう。夏の着物に汗が染みたら、丸洗いや解いて洗い張りをしてまた仕立て直しをしていました。浴衣は洗い張りするよりも、年に1枚は必ず新しいものを仕立てるのが当たり前でした。(そうして古い浴衣は他のものに再利用されていきます。浴衣 → 寝巻き → オシメ → 雑巾などなど。)
何より、今みたいに畏まった着付けではなかったでしょう。露出の程度はあるけれど、肌を見せることがはしたないということも(身分の違いはあっただろうけれど)あまりなかったのではないでしょうか。浮世絵に描かれる女性達のなんとラフで自由な着こなし方か。彼女たちは芸妓さんなど接客業の女性かもしれませんが、襟は鎖骨が見えるのではないかくらいに空けているし、襟足も抜いていること半端ない。
帯も博多みたいな硬いものではなく、もっと柔らかく崩れても解けないようなものだったかもしれない。
体が楽な方がいいにきまっています。決まりごとが、今ほどなかったような気がします。
普段着だからこそ、決まりごとは邪魔だったのかもしれません。
「普段着の着物」を口にするには、まだまだ半人前です。


着物

脱いだ着物の汗を飛ばすために、衣紋掛けにかけて風に通した時に気付いたのが、シワがかなり付いていることでした。昔織った藍の綿の着物もそれなりにシワはつきましたが、風に通すだけで目立たなくなりました。
その違いはなんだろう?
もしかして、打ち込みが軽かったか。重い着物が嫌で軽めに打ち込んでいたから、布が弱くなったかもしれないと思いました。
それでも、汗が乾いたらほどんど消えたので、綿と絹の違いをここでもはっきりと認識しました。
今度はもう少し強く打ち込んでみようか、と、また課題ができてしまいました。


HARU Top | Contact

Copyright(C) 2009-2023 HARU All rights reserved.