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織物の工程「千巻」

千巻は、粗筬の終わった経糸を「千巻箱」という織機の部品に取り付け、巻いていく工程です
ここでは、主に輪整経の千巻作業についてを記します
普通の整経の千巻作業もほぼ同じです 詳細は、織物の工程「整経」より、「普通の整経のこの後の作業」をご参照ください

千巻に使用する道具と事前の準備

千巻箱

クマクラ製織機は、千巻箱が本体から外せるようになっています 千巻の方法は、織機の違いやそれぞれの工夫によって様々ありますが、ここでは「床巻き」という千巻方法を行います
千巻箱は木製の四角い筒状です 60cm織幅の織機の千巻箱の実寸は65cmで、箱に丈夫な60cm幅の布が4、5重に巻かれています 布は千巻箱に固定されており、決して外れないようになっています
布は先端約15cm筒状に縫われていて、購入当初にこの筒の部分に自分で切り込みを入れます 最初に布の中心を測り、中心の印をつけます ここでは▼マークをつけています 鉛筆で中心から左右に2cm等間隔に、布に印をつけていきます この印をもとに、布の横幅に直角に3〜4cmの線を引き、この線を鋏で切ります 等間隔の幅は2cmとは決まっていませんが、幅が大きいと織物の最後に筋が入ることがあります 2〜3cmが適当です また、切り込みの長さは短いと括りにくくなります 切り込みを入れた筒の中に、専用のロット棒を通します

床巻きの準備

床巻きは、整経した経糸をできるだけ長くまっすぐに伸ばします
家の中で一番長く経糸を伸ばせる場所の片方に、経糸を固定する物を設置します 写真では、奥の部分、廊下の柱と柱の間に木材を横に置き、そこに経糸を結わえています この廊下の長さは、約8mです

このような場所がない場合は、伸ばせる範囲でくさりあみをした経糸をほどき、ほどいた最後の輪を織機の下部や動きにくい家具などにくくりつけ、大管で留めておきます 伸ばしていない経糸はくさりあみのままにして、千巻箱に巻いていくごとにくさりあみをほどいていきます 千巻は引っ張る力が強いので、不安定な家具などは避けてください

経糸を伸ばしたら、あぜ棒、筬、経糸の先端の結び目の前に千巻箱を置きます 千巻箱の布に通したロット棒の方を経糸に向けます 手の届くところに、織幅より長い物差しと、厚紙を用意します

ロット棒に括り付ける



輪整経(わせいけい)

粗筬の段階で千巻箱の布の切り込みの数に合わせて経糸を分けた場合は、そのままロット棒に括りつけを始めます
事前に分けていない時は、粗筬後の織幅と千巻箱の布の中心の位置を合わせ、千巻箱のロット棒に括り付ける束数を決めます
千巻箱の切り込みに括り付ける経糸の束数はできるだけ均等にします 左右どちらかに片寄ったり、ひとつの切り込みのみ本数が多くなると、千巻箱の経糸の流れが歪むことがあります
経糸本数と切り込みに括る束の計算です
織幅 ÷ 2 = 千巻箱の布の中心点です 中心点から織幅の左右の端を測ります
織幅と同一幅の切り込みの数を数えます
輪整経の場合、経糸は4本1組(または2本1組)で輪になっています
経糸全本数 ÷ 4(輪整経の1束の本数 2の場合もあり) = 織幅の束数
4本1組の輪を1束と数え、
織幅の束数 ÷ 切り込み数 = 1つの切り込みに括り付ける輪の数 になります
例:整経工程で計算した経糸
経糸の全本数
20羽 × 2 × 7.9寸 = 316本
316本 ÷ 4 = 79束の輪 大管立ての上段下段を使って輪整経を行ったので、輪の束は4本が一束になっています
織幅 = 7.9寸 = 千巻箱の切り込みの数 = 15ヶ
79束 ÷ 15ヶ = 5.2666…
割り切れない数になったら、括り付ける数を増減して調整します
15ヶの切り込みに5束の経糸を括り付けたとして、
15ヶ × 5束 = 75束 となり、79束 - 75束 = 4束が余ることになります
そこで、15 - 4 = 11
(11ヶ × 5束) + (4ヶ × 6束)= 79束
11ヶの切り込みに5束の経糸を括り付け、残りの4の切り込みは6束を切り込みに括り付けます
最初に5束を括り付け残りの4ヶを6束にしてもいいですし、左右端の2ヶずつを6束にして中央を5束にしても構いません。均等であることが第一です。
切り込みの位置が決まったら、端の切り込みまでロット棒を布の筒に通し、最初の切り込みにロット棒の先端を出します
輪整経の経糸は、整経の折り返し点が必ず輪になっています 片手で糸束を引っ張り、筬の先のあぜ棒の隙間に指を入れて隙間を広げて、筬の手前側の輪を正しい形にします 輪になっている経糸の先端を、引っ張りながら丸くひねり、もうひとつの輪を作ります この輪を切り込みから出したロット棒に通します(図参照)
ひねった経糸の輪を通したら、次の切り込みとの間の2cm間隔の布をロット棒に通し、次の切り込みに先端を出します この時、既に括り付けた経糸を少しずつずらしながら進めていきます 
この作業のコツは、経糸を緩ませないことです できるだけ張った状態を保ってください
この繰り返しで、輪整経の経糸を括り付けます

あぜ返し

均等に千巻箱に取り付けて経糸を張った時、手前から、千巻箱→筬→あぜ棒、の順に並んでいます
経糸の弛みや繊維の毛羽であぜ棒と筬に糸がひっかかることを防ぐためと、経糸の並びを均等にするために、早めに「あぜ返し」をします
あぜ返しとは、筬とあぜ棒の位置を逆にする作業です 千巻工程の次の「綜絖通し」の工程では、あぜ棒に交差している経糸の順番に沿って糸を通します その時にあぜ棒の側に筬が入ったままになっていると作業の妨げになります そのために、千巻の終了後に筬は抜きます
あぜ棒の役割は、経糸の順序を保つことで、織る直前まで外しません そこで千巻工程の段階で、道具の位置を「千巻箱→あぜ棒→筬」の順にする必要があります
あぜ返しは、手順を間違うと経糸の混乱に繋がります 詳しくは、織物の工程「あぜ返し」をご参照ください

巻く

あぜ返しを終え、手前から千巻箱→あぜ棒→筬、の順に変えたら、千巻箱に経糸を巻いていきます
床巻きは、中腰で行います 両手を千巻箱の両端にかけ、ここを持って経糸を張ります 千巻箱は4面あり、1面ごと手前に回転させて張る力を強くします その時やや持ち上げる恰好になり、次の面が上に出た時に床に下ろします 下ろした時に膝で千巻箱を抑えて、あぜ棒と筬を進行方向へ移動させます その間、必ず張った状態を維持します 
最初の1回転千巻箱を巻いた時、ロット棒に括り付けたこぶが出てきます このまま巻き続けると、こぶのために経糸に歪んだり、糸の重なり合いで経糸が乱れて緩みが生じます それらを防ぐために、機草(はたくさ)と呼ばれる紙を千巻箱と経糸の間に挟みます 紙は柔らかめの紙を使用します カレンダーの紙のような薄手の紙でもできますが、太い糸やコシの強い糸は押さえきれないので、マット紙の柔らかめの紙を使用してください 新品の紙を使用するときは、あらかじめ丸めておくと便利です 
最初の機草はロット棒のこぶを覆って挟みます 機草の使用頻度は、糸種により経糸の凸凹が目立つようであれば機草を巻き終わるたびに使う場合もありますが、均一の平らさを保っているなら2巻き(4面=1巻きとして)に1枚程度で充分です 機草の頻度が多すぎると千巻箱が重くなり、扱いにくくなります
千巻開始辺りでは、括り付けた割れ目がありますが、巻いていくとそれは自然と消えます 丁寧にあぜ棒と筬を動かしていくと次第に経糸が流れるように張られていきます


経糸を固定した手前

千巻は常に張った状態を維持しますが、前述のように回転させる時に1番張る力が入り、床に下ろした時はやや力を抜きます 四六時中力を込める必要はありません
巻いている際の織幅は、筬によって保たれています できるだけ千巻箱と平行に筬を移動させます 筬が斜めになると 織幅が狭くなり、千巻箱に巻いた幅もそれと同様に狭くなってしまいます また、千巻箱を張る力も利き腕の方が強くなりがちで、力の強い方に経糸が斜めに巻かれてしまいますから、均等の力で巻きます
経糸をくくりつけた手前まで巻いていくと、筬の向こう側に三角形の経糸の形ができます 経糸がくさりあみのまま残っているなら、ここで千巻をいったん止めて千巻箱を下ろします くくりつけた経糸を外してくさりあみをした経糸をほどきます 千巻箱、あぜ棒、筬を千巻を始めた位置まで戻し、再び残りの経糸を固定する場所にくくりつけ、同じように千巻を再開します

千巻に最中に経糸が切れた時は、張っている経糸全体を緩めて糸に余裕を持たせ、切れた糸端同士を機結びします その時、切れた糸の流れが乱れていることがあるので、正しく通っていた筬とあぜ棒の場所に戻してから結びます 
千巻の時に糸が切れる原因は、あぜ棒に糸の弛みや繊維の屑が引っかかり無理な力がかかって切れることがほとんどです 経糸の繊維屑を見つけたら早めに取り除きます また、整経の経糸の弛みがある場合は、巻いていく方向に弛みを伸ばさずに、千巻箱の側に引き寄せて弛んだ糸を千巻の中に巻き込んでいきます こうすることで、経糸が引っ掛かり糸が切れることを防ぎます
千巻はあぜ棒の両端の紐を結んだ状態で巻きますが、糸の毛羽の引っかかりが多い時は、あぜ棒の紐を解いて1本ずつ動かしていきます こうすると、経糸の絡みや毛羽が直しやすく、糸が切れることが少なくなります この方法を行う時は、経糸をあぜ棒から落とさないように慎重に巻いてください

千巻作業の終了

経糸の輪を切る

経糸が終わりに近づくと、筬は動きにくくなります 無理に巻くことはせずに千巻を終えます
経糸を巻いた千巻箱の上にあぜ棒を乗せて、あぜ棒がずり落ちないようにします 輪整経は経糸の終わりも輪になっています 整経終了の時にきつく結んだ紐を解く前に、経糸の輪を鋏で切り、それから経糸を束ねた紐を解きます こうすると、輪を乱れなく切ることができます


筬を外す

筬を外します 一度に抜かずに一握りずつ糸束を丁寧に梳かしてゆっくり抜いていきます 
千巻工程で、経糸を筬から外す時が最も糸を傷めます 繊維の屑、経糸の引っかかりもこの時に出やすいですが、いたわるように筬から外していきます
外した経糸の束は、一握りずつ結わえておきます この時も4本1組の束を10ずつ外して結わえると、次の「綜絖通し」の工程での作業が楽になります

高機を利用する千巻

これは、クマクラ製織機でできる方法です 
この千巻は、最低2人で行います 1人で行うと、経糸の張りが不均等になります

高機

クマクラ製織機の千巻箱を、芯棒に通したまま高機手前の男巻棒をはめるくぼみにはめます 千巻の芯棒と男巻棒の長さ、はめる突起部とくぼみの大きさは同じです この時、布の輪とロット棒を筬柄や綜絖枠に向けます 男巻に付いているギアと把っ手を、千巻の芯棒の菊をはめる溝に付け替えます ギアのストッパーと機本体のバネを繋ぎます


高機

筬柄の吊り棒を1番奥の位置に下げ、綜絖枠に入っているワイヤーヘルドを均等に左右に片寄せて中央を空けます 粗筬を終えた筬を筬柄にはめます 手前側には、輪整経の場合は経糸の輪を、普通の整経の場合は経糸の切端を出すようにします


高機

手前から、経糸の端→筬柄にはまった筬→あぜ棒→綜絖枠の順に並びます 括り付ける経糸の端を丁寧に揃えて、間先までの経糸のたるみをなくします 1人は高機の椅子に座って経糸の端を揃えて保持し、もう1人は間先で経糸の束を引っ張りながら糸のたるみを直します たるみを直したら、経糸を張った状態で、千巻のロット棒に経糸を括り付けていきます この際、間先で経糸を持っている人はそのまま糸を支えます


高機

写真では千巻の芯棒に経糸を固定していますが、これは芯棒が複数本ある場合にしかできません この高機は男巻から間先までの長さが短いので、織幅が広い場合、間先に経糸を固定すると経糸の中央と左右に長さの違いが出やすくなります ちなみに、男巻の棒は千巻のくぼみには入りません
普通の整経の場合、この時の千巻ロット棒の結び付けは仮結びにします


高機

この状態であぜ返しをします 筬柄側のあぜ棒と同じ隙間に物差しを通し、筬を物差しに近寄せて隙間を広げます この隙間と同じあぜ棒を抜き、筬柄の手前ロット棒に括り付けた側に移動させます


高機

経糸が混み差しで隙間が開きにくい時は、筬を筬柄から外して経糸の順序をわかりやすくします


高機

通し間違いのないことを確認して物差しを抜きます 同じように、もう一方のあぜ棒の隙間に物差しを通し、先程移し替えたあぜ棒と対になるように筬柄の手前に移動させます

普通の整経の時は、あぜ返しが終わった後に千巻のロット棒に本結びをします

高機の椅子に腰掛けた人はそのままで、もう1人は間先の後ろで経糸が均等な張りになるように経糸を引っ張って持ちます 織幅が広い場合は、経糸を真ん中で2つに分けて二等辺三角形を2つ持つ要領で両手で経糸を支えます こうすることで、経糸織幅の長さを均等に近づけることができます

椅子に腰掛けた人は、千巻の芯棒に取り付けたギアの把っ手を回して千巻箱に経糸を巻いていきます ロット棒に経糸が差しかかった際に、必ず機草を挟みます 機草の頻度は、経糸が太い時は糸による段差を防ぐためになるべく途切れ目なく入れますが、さほど段差がない時は2回転に1枚程で充分です

間先で経糸を支えている人は、経糸を張りつつ、千巻を巻いている速度に合わせて少しずつ経糸を送っていきます 糸種によっては筬の辺りで糸が絡むことがあります 床巻きと違い、筬は固定された状態なので、筬目に絡んだ拍子に糸が切れることがないように注意します 筬柄にはめたまま巻いた方が織幅が一定になりますが、経糸が動かないくらいに絡む時は、筬柄から筬を外して巻くと、経糸の負担が軽くなります


高機

経糸をすべて巻き終わったら、この状態で筬を抜きます あぜ棒を梱包用紐で千巻箱に固定して落とさないようにし、腰掛けたまま作業をします この際、高機の腰掛よりも綜絖通しをする時に使用する椅子に座ると高さが丁度よくなります

この方法の利点は、体への負担が少ないことです 腰や足への負担は、床巻きよりもはるかに少ないです ただ、複数人で行う方がスムーズに作業が進むこと、経糸の整経長が長い時は間先側で経糸を支えている人の方に負担がかかること、鯨寸30羽以上の細かい筬目を扱う時は、経糸に無理がくることがあります 織物の目的や糸種により、千巻の方法を選ぶことも大切です

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