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糸染の工程「精練」

「練り」とも呼ばれます 精練は、糸の種類によって工程も意味合いも違います 綿糸、絹糸、ウール糸、それぞれの精練の方法を記します

綿糸の精練

綿糸はセルロース(C6H10O5)という白色の繊維からできていますが、綿特有の汚れや撚糸の不純物や油などが付着していて、未精練の綿糸は茶色がかって特有の臭みがあります これらの不純物を取り除かないと染料をはじいてしまうため、綿糸は必ず精練を行います

綿糸専門の問屋さんの糸は、通常未精練の状態です 問屋さんに精練を注文することもできます ただ、大量の糸を一度に精練することが多いために、汚れが落ち切れていないこともあります 未精練の糸を購入し、糸計算に基づいた必要量を自分で精練を行った方が丁寧、確実に仕上がります

難しい方法ではありませんが、薬品に劇薬指定、固形苛性ソーダ=水酸化ナトリウム(NaOH)を使用するために、管理と取り扱いには厳重な注意を要します 苛性ソーダは、取り扱い染料店が限られています 購入の際には署名捺印が必要です

苛性ソーダは、素肌に付着するとただれること、目に入ると失明の危険があります 万が一こうした事態になった場合はただちに医師の診察を受けます 取り扱いの際は、ゴム手袋と眼鏡やゴーグルなどの目を保護するものの着用を徹底します

中性洗剤は。液体、マルセル石鹸、粉石鹸、どれを使用しても構いませんが、合成洗剤は避けます

タンクの大きさは、糸量の20倍の水量が余裕をもって入ることと、綛糸を入れた時に液の中で充分に泳ぐ程のゆとりが必要です タンクが小さいと、精練液が糸に充分に行き渡らず、精練に失敗することがあります

綛糸の重さを量り、1綛ずつ梱包用紐で緩く括りをつけます これは、綛糸についているあみそ糸が万が一切れた時に綛糸を保全するためと、綛を繰りやすくするためです

糸量の20倍の水をタンクに注ぎます 糸量の3%の苛性ソーダと1%の中性洗剤を量り、タンクの水に入れ、染色棒で撹拌します 苛性ソーダは溶け切らないですが、このまま火にかけて昇温します 温度上昇ともに苛性ソーダも溶けてきます

精練液が沸騰したら火を中火にして、乾いた状態の綛糸をタンクに入れます 綛糸が精練液に浸透するように染色棒で丁寧に撹拌し、液の表面から糸が出ないように沈ませます 綛糸を入れて2、3分で精練液が茶色く濁ってきます また精練特有の匂いもしますから、換気に気をつけます 沸騰状態を保ったまま、30分煮沸します

30分経ったら火を止め、ただちに綛糸を精練液から引き上げて、そのまま自然に冷まします すぐに精練液から引き上げないでおくと、糸から分離した不純物が精練液の中で再び付着しますから、必ず液から離します

常温に冷めた糸をひとまず脱水し、ゴム手袋をして水洗いをします 精練前の汚れは既に糸から離れているので、綿糸の精練特有の匂いが感じなくなれば水洗いを終え、脱水をして干します

*注:苛性ソーダは、必ず糸量の20倍の水に入れます 苛性ソーダに少量の水をかけることは危険です

絹糸の精練

ここでは、繭から直接糸を引き出して製糸をした絹糸の精練について記します

繭はフィブロイン(C15H23N5O6)という繊維質でできていますが、それを固めているのがセリシンという膠質(にかわしつ)です セリシンがついた状態の絹糸を生絹(なまぎぬ)といい、固く張りがある糸質です このセリシンを取り除くことが絹糸の精練です

絹糸は、生絹でも糸染ができます セリシンは染浴の高温に多少は溶けますが、固い糸質は変わりません この固さを活かした織物を織る場合、あえて精練をせずに生絹のまま染めます 撚糸の際の油脂が染浴に滲みますが、糸染自体にほとんど影響はありません

ただ、生絹の状態で保存しておくと虫に食われやすくなります 大量の保存は避けるか、精練をしておく方が絹糸には優しいです

この固さの基のセリシンを取り除く精練工程を経た絹糸を練絹(ねりぎぬ)といい、絹独特の光沢と柔らかさがここで初めて表れます 精練を行った絹糸は、生絹の状態より25%程度重さが減ります 通常、個人で行う絹糸の精練には、薬品を使用する石鹸ソーダ練りと、藁灰(わらばい)を使用する灰汁練りがあります どちらも弱アルカリ性です

生絹の糸を練る際、綛糸が乱れるのを防ぐために精練用の袋を使用します この方法を袋練りといいます 袋は綿布か麻布の織り目の粗い布を50cm×70cmに縫って袋状にします この大きさで綛糸およそ5〜7綛、約500gが精練できます 詰め込み過ぎると練りムラの原因になります


袋練りの方法の絵

5〜7綛の綛糸をまとめて梱包用紐で緩く束ねて結び、結び目から先50〜60cm程長くとります 綛糸を袋に輪状のまま入れて、結び目から先の長くとった紐を袋から出します


袋練りの方法の絵

輪状に入れた綛糸の輪の真ん中を、袋の上から一直線に縫い付けて綛糸が動かないようにします


袋練りの方法の絵

50〜60cm外に出した紐で、袋の口を結わえます こうして、精練液に浸します

この袋を自分で織る場合は16/2の綿糸で粗くざっくりと織ります 必ず水通しをして織り目が動かないように仕上げをしてから袋に縫います 自分で織った袋の方が、案外丈夫で使いやすいです

他に竿練りという方法もあります 染色棒をタンクの上に横に置き、そこに生絹の綛糸をかけて精練液に浸してゆっくりと練ります 竿練りの方が綛糸の精練状態が把握しやすいですが、綛糸が乱れやすくなります 半練りや八分練り、九分練りといったセリシンをすべて取り切らない方法を選ぶならば、この竿練りの方が向いています

精練の前に

生絹は、撚糸の過程で油脂類を使用します 精練の前に、この油脂を取ります

糸量の20倍〜30倍の50〜60℃の湯に、糸量の4%の中性洗剤を溶かし、30分程度浸けながら洗います この時、精練のための袋に入れた状態で洗うと、綛糸が乱れずにそのまま精練工程に進めます 洗い終わったら温湯でゆすぎ、脱水をして精練の準備に入ります

石鹸ソーダ練り

*注:練りモノゲンは商品名です 入手が難しい場合は、中性洗剤で代用します

分量の無水炭酸ソーダ、マルセル石鹸、練りモノゲンをボウルに入れて、温湯を加えて弱火にかけて溶かします 糸量の20倍の温湯をタンクに注ぎ、溶かした薬品類を入れます 90℃前後に精練液を昇温し、袋に入れた綛糸をタンクに入れて精練を始めます 袋ごと撹拌するようにし、糸全体に精練液が浸透するように気をつけます 精練中は袋を開けずに、精練液の温度は90℃前後を維持します

ゴム手袋で袋の上から綛糸を触ると、当初はぬるぬるとぬめりがありますが、このぬめりが膠質が取れてきている状態です 次第にぬめりがなくなり、きしみが出始めます 全体にきしきしと絹特有のきしみを感じたら、精練の終わりです 精練の時間は約1時間程ですが、厳密に時間を守るよりも糸の状態を見ながら判断した方が適切です 精練の終わりを判断したら、袋を引き上げて絞って冷まします 冷めたら袋から取り出し、綛を乱さないように気をつけながら無水炭酸ソーダ1〜2%を入れた温湯で洗い、その後水洗いをします 水が澄んできたらいったん脱水をし、最後に適量の水にごく少量の酢酸を入れて洗います 精練液は弱アルカリ性なので、最後に酢酸に付けることで糸が中和されます

石鹸ソーダ練りは、劇薬薬品を扱うことがなく、主成分が石鹸類なので手軽にできます ただ、石鹸カスが残りやすいという弱点があり、糸に石鹸カスが残っていると糸染に影響が出ることもあります

灰汁(あく)練り

灰汁の作り方の絵

たらいは、必ず金物のたらいを用意します 古い金たらいの底に、太い釘でできるだけたくさんの穴を空けます 穴の空いたたらいを、中くらいのたらいの上に置きます 畳床を使用する場合、畳床を括るナイロン糸などの異物が入っているので完全に取り除きます 穴空きタライに藁、または畳床を適量入れ、火を付けて燃やします 4、5回に分けて藁を入れ、勢いよく燃やしていきます 灰が白灰にならないように火の勢いが衰えないようにします この際、燃えている藁に空気を入れて燃えやすくする程度に持ち上げますが、かき回しすぎるとたらいの穴がふさがるので注意します

用意した藁をすべて燃やしたら、まだ熱いうちに糸量の20倍ほどの熱湯を、藁全体に静かにかけます 穴の空いたたらいから下のたらいへと、藁灰の灰汁が滴り落ちます 用意した熱湯を入れ、すべての灰汁を取り切ります 灰汁を取り切ったら、ただちにタンクの上にシーツなどの大きな布をかぶせて灰汁を濾します さらに、もう1度漉し、灰汁の底に溜まったカスは捨てます 濾した灰汁は、少しぬめりけのある飴色の液になります

灰汁の量を、糸量の20倍にします もし、灰汁だけで20倍にならない場合は水を加えます タンクを火にかけて、90℃〜92℃に保ち、沸騰状態にならないように注意します 袋に入れた綛糸を、精練液に入れます ムラなく精練するために、袋ごと撹拌を繰り返します 入れた当初はぬるっとしますが、膠質が取れてくるにつれぬめりが消え、絹特有のきしみが出てきたら精練の終わりです 精練の時間は約1時間程が適当ですが、手触りで判断してそれよりも短い時間で終わらせることもあります 扱いやすい練絹は「九分練り」といい、若干セリシンが残っているくらいが良いとされます

精練終了を判断したら袋を上げ、糸を取り出して、熱い湯で勢いよく振り洗いをします 湯で洗うことで、汚れを早く取ることができます その後は温度を下げて、2〜3回水、または温湯を取り替えながら振り洗いをします 脱水後、適量の水を貯め、少量の酢酸を入れ、その中で洗います 絹糸が中和されることで、感触も見違えるように変わってきます

1綛1綛丁寧にはたき、干します 外で干す場合は、綛糸どうしが引っかからないように注意をします

この灰汁練りは、昔から行われてきた絹練りの方法です 練絹の輝きは、石鹸ソーダ練りに比べ格段の差があります 糸染をしても良い色を得られます ただ、都市では藁の入手が困難なこと、安全な場所と人手が絶対に必要になります 行う場合は、消火器、水の用意、さらに風の強い日は避けるなど、火の取り扱いに充分に留意し、必ず複数の仲間と確認し合って行う方が安全です

絹糸には、真綿紬糸や絹紡糸やなど繭や繭くずを引き伸ばしてから糸にする種類があります 真綿紬糸は、繭の状態で精練をしてから引き伸ばしているので、糸になった真綿紬糸を精練することはありません また、絹紡糸、絹紡紬糸(けんぼうちゅうし)は、屑繭をもとに紡がれる糸で、真綿紬糸と同様繭の状態で精練されているので、精練をすることはありません ただ、紡績の過程で油類が付着することが多いので、こうした糸は中性洗剤で洗うか、熱湯につけて油分を落とします

ウール糸の精練

ウール糸は厳密には羊毛のことですが、ここではアンゴラ、アルパカなども含みます

現在、問屋さんから購入するウール糸は、精練の必要がない状態のものが多いので、精練は滅多にしません 撚糸による油がついていることはありますが、糸染にはほどんど影響はありません ですが、動物の油脂が付着した糸、あるいは撚糸の油脂が気になる場合は精練をします

ウール糸の重さを量り、綛糸1綛ずつに梱包用の紐を緩く結びます タンクで必要湯量を沸かし、約60℃にします 糸量が少量であればそのタンクのままでいいですが、量が多ければたらいか流し台のような広いスペースの湯を開けて、湯に分量の中性洗剤を入れて溶かします

乾いたウール糸をその中に浸け込み、温度が下がらないように蓋をして30分置きます その後、脱水をして、湯を代えて温湯で洗います ウール糸は上下に引き上げ、引き下げながら洗います これは、綛糸を強く振ったり揉んだりするとフェルト化するためです 精練に限らず、ウール糸は必ず湯に上下させて洗います また、急激な温度の変化でもフェルト化するので、最初の精練液から洗いに移る時は水ではなく30〜40℃の温湯で洗います 汚れと洗剤を落としたら、脱水をして干します

麻糸の精練

麻糸の精練は、綿糸と同様です ただ、麻糸は種類が多い上に、リネンなど生成の色を利用した制作をすることが多いので、必ずしなければならない工程ではありません 細いラミー糸やリネン糸の単糸には、扱いやすくするために既に糊付をした状態で販売しているものもあり、こうした麻糸は精練をする必要がありません 麻糸をよく見て、精練の必要があるかを決めます

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