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HARUの織物制作「真綿紬糸で単の半幅帯を織る」

きっかけ

織物を覚えてしばらくは着尺ばかり織っていました。一人で着ることはできなかったけれど、それでも着物が好きで綿や紬の着尺に絣をあしらって織っていました。でも、着物は飾るものでなく、使うもの。着ることができないせいもあり、次第に柄ゆきがタピストリーのようになっていき、疑問を感じるようになりました。「これならタピストリーを織った方が自由ではないか?」 それが織物制作で着尺や帯を織ることがなくなった1番の理由だったと、今は振り返ることができます。

着物や着物関連の制作に肩の力が抜けたのは、本当に最近です。着物を普通に着ることができるようになり、着物好きの人たちとの気さくな会話で今の時代に合った感覚に触れ、古くからのしきたりの意識が薄らいできたこともあります。一番の理由は、「本当に織りたいものを今織る」 この思いに行き着いたからです。そう思った時、織りたいものは、やはり和の世界でした。

ですが、着尺を含め綿糸絹糸の細い糸を随分長いこと扱っていませんし、何よりもっとも大切な打ち込みの勘が取り戻せるか。そんな不安もあり、いきなり着尺にいく前に練習のつもりで半幅帯を織ろうと思ったのが、この半幅帯制作の始まりです。

参考にした織物の教本に「真綿紬で帯を織る」と書かれていて、素直に納得して、いくつかの試作を経て今回の制作にかかります。

帯への誤解

37.5羽という筬があり、ご好意で手に入れることができました 「これは帯専用の筬」と聞いた覚えがあり、帯にはこの筬を使用せねばならないのだ、と思っていたのです この37.5羽で玉糸110中2を丸羽で通して半幅帯を試作をしてみましたが、…どうも経糸の密度がが粗い 経糸の色合いが出にくい 経糸が細すぎるのか? 確かに110中2の玉糸は着尺制作に使用する貴重な糸ですから、細いは細いのですが、このくらいの細さの経糸で織られている帯は当たり前にあるのだが… などと考えて久々に恩師のアトリエに伺い尋ねたところ、「37.5羽は、綿糸10/1(ジュッ単)の丸羽を基準に作られた筬。37.5羽がなければ25羽の三刺しでジュッ単の綿の単を織るのよ。」 …そうだ、10/1の綿糸を25羽の三刺し(みつざし)で織ったことがあったっけ、と思いだした始末です(三刺し…筬目一目に3本の糸を通すこと) ちなみに、110中2の玉糸で帯を織るなら、40羽の丸羽かそれ以上の細かい筬でもいいでしょう、とのこと また、「帯は特にこの筬を使わなければいけない決まりはない。糸と織る人次第。」 そして、昔は堅い帯を自分で着こなして柔らかくしていったけれど、今は趣味で着物を着る時代 堅い帯は扱えない人も多く、最初から柔らかく織ることも喜ばれるのだとか

…帯って、何でもいいのだ と改めて固定観念に縛られた自分に反省した次第です

試作と糸選び

織

今回の半幅帯制作のためにあらかじめ試作の半幅帯を織り、真綿紬糸を複数本撚り合わせることを試しました 真綿紬糸を緯糸に使用することは試作で納得しました 絹の光沢感があるのに、素朴だったからです この時に使用した緯糸は厳密には真綿紬糸ではなく、毛羽立ちの強い真綿紬糸を使いやすくするために撚りをかけたものでしたが、光沢感があり柔らかさもいい感触でした が、細い糸(これもご好意の頂き物の糸で番手は不明)なのでこの糸を5本撚り合わせても太くならず、まして強く打ち込むので尚更締まります 水通しをした後の帯としての堅さと厚さが今ひとつでした これはこれでとても締めやすく帯として使えましたが、柔らかさはこのままでも厚みが欲しいと考え、緯糸を太くしたいために新たに糸探しを始めます

長年マフラーやショールのための糸を中心に集めていたので、糸種は様々あります 手持ちの糸でも試作してみましたが、厚さはよくても柔軟さがなくなったり光沢感が薄かったりで、絹糸専門の問屋さんから糸見本から選ぶことにします

糸を購入する時、必ず糸見本を手元に取り寄せてから注文することにしています ただ、糸見本はあくまで見本で、綛糸を手に取ってみると首を傾げることもあります また、糸問屋さんは糸の熟練の方が多いので、直接お話をして「こういうものが織りたい、こんな糸が欲しい」と相談した方が相手の方にも覚えて頂けるし、適切な助言も頂けるとも思います 今のところは糸見本の状態を信頼して選んでいます

今回選んだ糸見本は、京都西陣にある絹糸専門の問屋さんで吉川商事です ちなみに糸見本は有料です

この糸屋さんから糸を購入するようになったきっかけはショール作りです 絹紡糸とウール糸の細糸を兼用することが多かったのですが、絹糸のみでショールを織った方が織布の色合いが良くなるかもしれないと、ホームページから検索して糸見本を購入しました この時は光沢のある紡績糸と質感のある柞蚕糸を購入しましたが、玉糸や生糸、真綿紬糸の種類も豊富で選びやすいと実感しました 今回改めて糸見本のすべての糸種を読み直してみると、真綿紬糸でもかなりの種類があり、また真綿紬糸を経糸に使用するために丁寧に撚りをかけた糸もありました 織物の目的が違うと見るところも違ってしまうものです


織

糸見本の真綿紬は5、6種類程で、その他に真綿紬糸に生糸を巻き付けて(付け糸)経糸に使用できるようにした糸などを合わせると、かなりの種類になります 中でも面白いかな、と思ったのは、「手引き真綿300回(1020d)」という真綿紬糸です 真綿紬糸は、一定の量の真綿を人の手で、あるいは紡毛機で紡いでいきます その一定量の真綿からできる糸の綛に上げられている回数(綛に巻かれた本数)で太さを表します 着尺では、初心者で真綿800回〜900回、慣れてくると1300回(230d)などを用います 真綿300回はかなり太く、でも真綿紬なので光沢もあり柔らかさも充分です もっと太い200回(1500d)もありましたが、撚り合わせて1本の緯糸を作りたいと思っていたので、300回を選びます


織

もうひとつ気持ちが動いた糸に、「手引き真綿3.5匁(もんめ)タスキ」があります 経糸に使用できるように生糸の付け糸の比率が高いこと、付け糸は21中4であることなど、真綿紬糸の良さを活かしつつ扱いやすくしてあるとの説明です 無論糊付は必要ですが、経糸緯糸共に真綿紬糸の帯をやってみたいなぁ、と思い、購入を決めます

(*真綿紬糸はかっては人の手で紡がれていましたが、現在は紡毛機で紡ぐことがほとんどです)

デザイン

半幅帯は、袋帯や名古屋帯の半分の幅です 通常帯の幅は鯨尺で八寸 その半分の四寸が半幅帯の幅です 鯨尺は昔から使われていた長さの単位で、主に和裁縫には欠かせない数字ですが、現在ではcm単位で作ることもあるようです 織物でも鯨尺で幅と長さを表す人は少なくなりました それはともかく、半幅帯自体は今も健在で、夏の浴衣の帯は大抵半幅 締め方も、文庫結び、変わり文庫、矢の字、貝の口、その他自己流にあれこれ試して結ぶことができる気軽な帯です リバーシブルの半幅帯も便利で、仕立て次第でどのようにでも楽しめます 浴衣だけでなく、着慣れた人なら紬や小紋に締めるお洒落な帯としても重宝されます

今回織りたいと考えたのは、真綿紬のもっている素朴さを活かした普段着の単の半幅帯です 単(ひとえ)とは仕立てをしない帯で、織り方により違いはありますが、大体表裏とも同じ柄です 仕立て帯はどのような布でも仕立て屋さんの手で帯になりますが、単の帯は織り方や糸次第で帯になるかただの布になるか、作り手の判断が大きく左右します 着物の感覚を体の随まで覚えさせたいと常々思っている身としては、まず普段の生活の中で着る着物と帯を自らの手で作りたい…、と意気込んでいます

現在ではあまり見かけませんが、ふた昔前(もっと以前かもしれない)までは冬はウールの着物が普段着でした 安価で惜しげなく着ることができたことと、やはり温かさでは他の素材の中では一番でした このウールの着物を数枚持っていて、その中で紫色を地にしたプリント柄(小紋などではなく本当にプリント)の着物が特に好きで、これに合う半幅帯を織ろうと決めます


織

紫地にグレーの大柄の縞の帯はどうだろうかと、縞の間隔を決めます それほど凝った縞でなくともいいから、素材感を前面に出すことにします 単純にグレーの濃淡だけではアクセントが乏しいので、濃いグレーの端に細く淡いグレーの縞を入れて、わずかですが変化をつけることに決めました

(*織物の帯は単のみではなく、仕立てを前提として帯地を織ることもします むしろ、こちらの方が主流です)

織計画

織

今回、経糸に使用する「手引真綿3.5匁タスキ」に合う筬を決めます 鯨尺寸間40羽の丸羽で丁度いいのではないかと判断します

織幅は、前述のように四寸です 単の帯の場合、緯糸が太くほとんど織縮みはしないために緯の織縮み分は加算しません

帯として必要な長さは、9.2尺=約3.5m これは自身の帯を基に決めた長さで、それぞれの体型や結び方の種類により差はあります

単の帯は緯の織縮みはしませんが、経の織縮みは大きいです これも緯糸が太いためで、試作をしたのはこの織縮みの量を知りたかったからでもあります 必要な長さの25%加算します さらに、男巻結び付けと織り終いの分の経糸も加えます

ここから割り出される計画

筬)  40羽/丸羽
幅)  四寸
長さ) 9.2尺=約3.5m
整経長)350cm×25%=87.5cm 350cm+87.5cm=437.5cm…約440cm 440cm+50cm=490cm=4.9m
全本数)40羽×2=80本×4寸=320本
経糸全長)4.9m×320本=1568m
手引真綿3.5匁タスキは、枠周が1.27m 回数が2000回です
1.27m×2000回=2540m 1綛=2540m

計算上は1綛で足りることになりますが、グレーの濃淡の縞なので各1綛ずつ染めて、合計2綛使用することに決めます

経糸の糸染め

最近の織物制作で決めたことがふたつあります ひとつは和の感覚を大切にしたいということ ふたつ目は、天然染料を活用していこうということです これは合成染料を否定することではなく、作り手の意識次第ということです 合成染料には大切な役割があります 色を決めて「この色でなければならない」と思うのであれば、合成染料の使用が適しています 被染物(糸や布)により染料は違いますが、それぞれ色見本も揃っていますし、染料の配合を決めたら(何色も混色をしない限りは)必ず求める色を得ることができます

天然染料を使用する時、「色をいただく」という言葉をよく使います 日本人らしい曖昧さ、と言う人もいますが、曖昧さという意味は当っているかもしれません 天然染料を使用する時も、無論色は決めます ですが、「この色でなければならない」のではなく、「こんな色になればいいかなぁ」程度の曖昧さです そして染まった糸を頂いて、改めてデザインを考え直すという柔軟さがあった方が天然染料を使用するには向いています

このことを再認識した時、糸染が楽しくなったことを自覚しています

自然の染料はそれだけでは被染物に染まり付きません 必ず媒染という工程を行います これは水溶性の金属塩を用いて被染物と染料を結合させるもので、この金属塩を媒染剤といいます 主にアルミ媒染(明礬、酢酸アルミニウムなど)、クロム媒染(クロム明礬、酢酸クロムなど)、銅媒染(硫酸銅、酢酸銅=共に劇薬指定)、鉄媒染(硫酸第一鉄、木酢酸鉄など)があります

媒染には先媒染と後媒染があります 先に媒染してから天然染料を煎じた染液で染めるか、染液で染めてから後で媒染をして発色させるかの違いです 媒染剤により絶対に守らねばならない決まりもあり、銅媒染と鉄媒染は必ず後媒染で行います これは、金属塩の成分が他の媒染剤よりも強いためです

アルミ媒染、クロム媒染は、先媒染でも後媒染でも使用できます 先媒染をした場合は、媒染剤で処理をして糸と媒染液を冷ました後に、被染物をアンモニア水の薄め液に浸すアンモニア処理を行い、それから天然染料の染液で染めます アンモニア処理は被染物に付いた媒染剤を固着させるために行うもので、染まり方が強くなることと色落ちが少なくなります (ただし、アンモニア処理をしなくとも染めることはできます)

今回は、経糸を矢車の鉄媒染で濃色淡色の2色を染めることにします

矢車はカバノキ科の落葉高木で、染料にするのは秋に黒く熟した実です 成分は、タンニンを多く含んでいます


織

矢車は比較的安価で、染料店に大袋で売っていますからそれを使用しています(堅牢度などの関係で自身での染料の自然採取はほとんどしていません) 矢車染めは茶色から濃いグレーまで、媒染剤によって幅広い色が得られます ただし、アルミ媒染、クロム媒染は発色が悪いために向きません


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始めに糸の重さを量ります 手引真綿3.5匁タスキの1綛は60g それを確認した後、熱めの湯に浸けます 真綿紬は水分の浸透が遅く、少なくとも2時間程度は浸けておきます(一晩浸けることもあります) 糸染めの前には必ず糸に水分を吸わせます これは糸の内部まで染液が入るように、ムラなく均一に染めるために必ずすることです

その間に、染液を作ります


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濃色の縞の矢車の濃度は20% これは矢車としては濃い濃度です 染料の濃度を表す%は糸の重さに対するもので、60g×20%=12で、12gが矢車の必要量になります


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この12gの矢車をボウルに入れ、矢車がかぶるくらいの水を注ぎ中火にかけ、沸騰したら弱火にして30分煎じます このくらいの少量の染料だと水分がすぐに蒸発してしまうので、沸騰後こまめに少量の水を加えます


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30分煎じたら、すぐに漉します ここではステンレスの深ザル(ラーメンの湯きりに使うもの)の中ににシルクスクリーンに使用する布を入れて漉していますが、目の細かい布であれば何でも構いません (木綿布などの天然繊維で漉すと、漉した布に染液が多少染み付きます) なお、漉した後の矢車の実は、次の淡色の染めに使うので取っておきます


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漉した矢車の染液に糸の重さの20倍の温湯(30度前後=湯沸かし器の低温程の湯)60g×20=1200ccを加え、ただちに染め始めます 矢車のような木の実や草、葉の染料は酸化が早いので、煎じた後時間を置かないようにします


織

湯に浸けておいた糸を脱水機にかけ、糸をよくはたきます 染浴(タンク内の液のこと)を火にかける前に、糸を全体にまんべんなく繰り入れます 糸全体に浸透したら、タンクを弱火にかけてゆっくり温度を上げます およそ60度前後で一番糸に吸収されるので、温度が上がる前に糸を繰り続けます 染浴が多い時は染色棒(竹やステンレスの棒)をタンクの端に渡して、そこに綛糸の輪をかけて丁寧に繰り続けますが、今回は1綛のみで染浴が少なく昇温が早いので特に注意します また、染浴が少ないことから、タンクの底に付いた糸に矢車の色が濃く付いてしまうことがあるので、温度上昇中は傍を離れずに面倒をみます


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沸騰したら、そのまま20分煮沸します


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20分経ったら、火を止めて放冷に入ります 放冷とは、何もせずに自然に温度が下がるのを待つことです 先媒染でも後媒染でも、煮沸した後は必ず放冷をします この放冷中に後媒染の場合は染料の色が充分糸に染み込み、先媒染の場合は媒染剤が糸の中まで浸透していきます 特に、鉄媒染は熱を嫌います 必ず40度以下まで温度を下げます


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鉄媒染は他のほとんどの天然染料と違い、媒染の際に熱しません 鉄を熱すると被染物に錆が出てしまうからです 必ず、常温で媒染をします 鉄の媒染剤は、硫酸第一鉄や木酢酸鉄が幅広く用いられています ここでは木酢酸鉄を使用します

40度以下の常温に染浴が下がったことを確かめ(触ってぬるければ大丈夫)、手で堅く絞ります 脱水機を使用すると絞りすぎるので、手で絞った方がよく染まります 絞る時に絞り液をこぼさないように、タンクの中に液を残します

糸を絞った後、ただちに媒染をします 時間をおくと糸に染み込んだ矢車が酸化しやすいので、時間を置かないようにします


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タンクに残った矢車の染浴をふたつに分けます

木酢酸鉄の濃度は、10%前後 これは、色味を見ながら木酢酸鉄液の量を調整するためです 糸の重さが60gなので、60g×10%=6ccです 木酢酸鉄の瓶の注意書きに「浸し染めは濃色で布または糸の40%、淡色で8〜20%」ありますが、かなり濃すぎるように感じます 今回は濃いめのグレーですが、10%程度で充分濃くなります 媒染剤の割合は個々の経験に基づいた方がいいと考えます


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6ccの木酢酸鉄を、2つに分けた矢車の染浴の片方に入れます 茶色の矢車の染浴が黒く反応します

鉄媒染に限らず薬品を使用する時は、必ずゴム手袋をします(特に鉄媒染は手が荒れます)


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堅く絞った綛糸をよくさばき、木酢酸鉄を入れた媒染液の中につけ込みます

揉むようにつけ込み、糸の一部を軽く絞って染まり具合を確かめます 今回はこの10%で充分と判断しましたが、もう少し濃くしたいと思うなら、いったん糸を媒染液から出して、1〜2cc程度の少量の木酢酸鉄を加えて媒染液を撹拌し、再び糸を入れて揉み込みます ただ、媒染は徐々に濃くなっていきますから、慌てて判断をしない方がよいと思います


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糸をよく揉み込んで、15分このまま浸けておきます


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15分後糸を取り出し、堅く絞ります この時も脱水機は使いません 堅く絞った糸を、最初に分けた矢車の染浴のもう一方に入れてよく揉み込みます そのまま5分程浸けます これは、矢車の染浴に戻すことで糸に付着した鉄分をもう1度媒染させて糸に鉄分を残さないようにするための処置です このように二度染浴に浸けることで、ほどんどの鉄分が糸の染料と結合して糸を錆させることを防ぎます

5分程浸けて、絞ってから水洗いをします 天然染料は染めの後の水洗いに時間と手間を要します 糸に付着した余分な色を落とすことも大きいですが、特に鉄や銅のような強い金属塩の媒染剤は、媒染剤の成分だけでなく特有の匂いもありますから、充分過ぎるくらい水洗いをします


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絹糸の洗い方は振り洗いといって、綛糸の輪を掴んで、水を浅く張った水槽かタライに腕を振り子のように振りながら、綛ごと左右に振って洗います 慣れないうちは水を四方に飛ばしますが、水の張り加減を少なくするとさほど水滴を飛ばさずに洗うことができます また、何度も水を変えながら洗うので、たくさん貯めるよりは少なく張ってこまめに水を取り替える方が水の濁りも早く終わります この際、水洗い→脱水→水洗い→脱水→水洗い…と、こまめに脱水を繰り返すと、糸に余分な染料の濁りが早く取れます

鉄媒染で一番気をつけることは、糸が錆びないように鉄分を落とし切ることです 色落ちがしなくなり木酢酸鉄特有の匂いが消えたら、脱水をして干します

半幅帯の縞の淡色のグレーも、矢車の鉄媒染で行います


織

濃色を染めた矢車12gを再び煎じて使用します これを二番煎じといい、天然染料ではよく用いる方法です (ただし、染料がチップ材や酸化の早い染材はできません 矢車もタンニン質を多く含むために酸化が早いですが、実自体はよく乾燥させれば再利用できます)

手引真綿3.5匁タスキの糸1綛を温湯に浸けて、一度煮出した矢車をもう一度同じ方法で煎じます 一番煎じよりも若干薄いものの、まだしっかりと色は出ます 同じ方法で糸を入れ、矢車の二番煎じの染浴で糸を煮沸します

天然染料の染料と媒染剤の割合は、絶対という組み合わせはありません 染料の割合が多く媒染剤の割合が少ないと、糸の発色は弱くなりますが、染料の持つ色合いが強くなります 逆に媒染剤の割合が大きいと、薬品特有の色味が残ります 鉄媒染なら黒く、銅媒染なら青みが強く残ります アルミ媒染は薬品自体の色味がなく、単にアルミ臭が残るか(酢酸アルミニウムの場合)糸に吸収されないまま染浴に残ることが多いです

今回のグレーの淡色の矢車の二番煎じの鉄媒染は、木酢酸鉄5%にします これは濃色の10%と差をつけるためと、煎じている色は出ていても糸に染まり付く量は少ないと判断したからです 鉄分が強く糸に残ることを懸念したこともあります

同じように媒染をして、2綛の矢車の鉄媒染染めが終わりました


織

天然染料で染めた糸は、時間が経つにつれ色味が落ち着いてきます できるだけすぐに使用せず、2週間〜1ヶ月は寝かせておくようにしています

糊付

手引真綿3.5匁タスキという糸を扱うのは初めてですが、扱いやすいように付け糸を巻いてあるにせよ、やはり細い真綿紬糸の感触があります 真綿紬糸の良さは、空気を含んだ温かな風合い その暖かさを生み出しているのが真綿紬糸独特の優しい毛羽です ですが、この糸を経糸遣いにして、このまま織の工程に入ると間違いなくきつい思いをすることは目に見えています

毛羽をふせるために、経糸2綛に糊付をします

要領は着尺の玉糸や生糸の糊付と同じ方法で、布海苔としょうふ糊を併用します しょうふ糊だけは真綿紬の毛羽は抑えきれないのと、布海苔を加えると糸が柔らかめに扱えることがあります

まったく違う色なら別々の糊液を作りますが、(糊付で染めた色が滲み落ちることがあるため)今回は同じ矢車の鉄媒染の濃淡なので、2綛一緒に糊付することします

布海苔を使用する時、いきなり思いついても間に合いません 2〜3時間程では布海苔は溶け切らないことから、前日の晩から水に浸しておきます(約半日浸せば布海苔は溶けますが、糊付は日中の温度が高い時間帯に行う方が糸の乾きが早いので夜のうちに浸しておきます 同じ理由で、糊付を行う日は晴れる日を選びます)

糊付をするグレーの濃淡の2綛は、完全に乾いた状態にします


織

布海苔の割合は5% 糸2綛で120gなので、120g×5%=6gの布海苔を細かくちぎってボウルに入れ、糸の重さの2倍の水、120g×2=240ccを注ぎ、そのまま一晩置きます


織

一晩置いた布海苔は、ドロドロの状態に溶けています


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しょうふ糊を2%、120g×2%=2.4gを量り、溶けた布海苔の中に入れます


織

このまま中火にかけ、撹拌しながら徐々に温度を上げていきます


織

糊の糊化の温度は、約75度〜80度です 染色用の温度計で測りながら煮え過ぎに注意します


織

木綿の晒布を用意します できたら袋状の方が便利です ここでは日本手拭の布を袋にしています この綿の袋をボウルに広げて、この中に糊化した糊液を注ぎます


織

75度の糊液は熱いので、必ずゴム手袋を着用します 手で袋を締め。強く絞ります 布海苔は粘り気があり、絞っていると思わぬところから液が噴き出しますから注意します 完全に絞り切るとボウルには薄い茶色の液体ができます


織

この糊液に、糸の重さの2倍の水を注ぎます 液量は、糸の重さの4倍になります(糊付をする糸が湿った状態の場合は、この時に注ぐ水の量を糸の重さと同量にします 従って全体の液量は糸の重さの3倍になります)


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撹拌した糊液に2綛の糸を入れ、よく揉み込みます 乾いた糸に一度に糊液が吸収されて液が足りないような気になりますが、何度も絞りながら揉み込むと次第に綛糸に均一に染み渡っていきます


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このまま2〜3時間置きます

2時間半程経ち、糊が糸に浸透したら、綛糸をひと綛ずつ手で絞ります 粘り気のある糊が絞られます ここでは素手で絞る範囲にしておきます ただちに糊付した綛糸のはたきに入ります

綛糸をはたく専用の道具はないので、高機の男巻を使用します かなり強くはたくので、被箱の中は空にし、筬柄を外します さらに、男巻についているギアと男巻布も外します 高機の踏み木の上に大きめのタオル(バスタオルの類)を敷き、大きめの洗面器かタライを置きます これは室内で糊のついた綛糸を絞るために、糊液で機や部屋を汚さないようにするためです


織

男巻に綛糸を通します 男巻にかけた綛糸に竹棒(染色棒の類い、できたら軽い物を使用)を通し、竹棒で綛糸を引っ張って男巻を支点にして軽く2、3回はたきます 引っ張った状態で綛糸を均一の張りにして、竹棒を回して綛糸をねじります 綛糸が1本の棒のようになるくらい強くねじると、綛糸についている糊がにじみ出ます 粘り気があるので、手で削ぐように糊液をタライに落とします

ねじりを元に戻して2、3回はたき、綛糸を1/4回転回します 同じく綛糸を引っ張り、先程とは逆方向にねじります 先程落とせなかった糊がにじみ出てきます 同じように落としてはたきます もう一度綛糸を回し、どちらの方向でも良いのでねじります おおよそ3回ねじると糊液は落ちます この落とした糊液は余分な糊なので、できるだけ丁寧に落とし切ります 落とし切らずに綛糸を乾かすと、糸のごわつきが強くなり逆に扱いにくくなります


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糊を落としたら、綛のあみそを分けます この綛糸には2つのあみそがあり、まずあみその糸で仕切られた箇所を丁寧にほぐします 真綿紬糸は毛羽が多いので分けにくいですが、少しずつ分け目を大きくしていくと、次第に綛糸全体が分かれていきます

このあみそを分ける作業は、糊付した綛糸が少しだけ乾いた方がやりやすいです 最初のうちは濡れていても、あみそ分けの作業をしているうちに乾いてくるので、次第に糸がほぐれてくるのがわかります あみその分け目を大きくし、はたき、また糸の流れを整え、またはたく この連続で作業は進みます 糸1本1本の流れが見えてきたら、糊付終了です


織

綛糸の下に重しを通して、一気に乾かします

糸巻きから整経へ

再び、織計画に戻ります 前回の織計画は、糸染めのための半幅帯の全体の糸の長さや量の計算が主でした 今回は実際の作業の計画になります デザインを基に経糸の縞の本数を割り出し、糸巻きをする大管の本数を決め、大管立てに並べる順序、整経台の道筋、整経回数を決めます

当初、手引真綿3.5匁タスキの淡いグレーの糸にするつもりだった濃いグレーに入れる2本の細縞の糸を変更します 以前染めて取り置いていた細糸の絹紡糸で、コチニールの極淡色を使います 淡いグレーの糸よりも明るさが出るかと思ったからです 40羽の丸羽でも無理なく通せます

コチニールは動物性天然染料で、南米原産のサボテンにつくカイガラムシです 虫自体ではなく、採集した雌を熱湯などで処置後乾燥させたものを、乳鉢ですり潰して染めます すり潰したものも売られていますが、自分で擦った方が色味がいいようです 明礬媒染(アルミ媒染)で紫がかった赤に染まります(助剤の酢酸の量により紫味の変化あり) この極淡色のコチニールの糸は、濃色のコチニールを乳鉢ですり潰し煎じて、別の糸を3回ほど染めた染液の最後の残りの色を糸に移しました コチニールは1度の染めでは染液に色が残ることが多く、何度も繰り返して染め、段々淡色にしていく楽しみがあります その時は使用しなくとも糸を染めておいていつかに備えておくことをよくします コチニールが高価なためでもありますし、とても美しい赤色を得られる天然染料だからです 最後になると、もうほとんど透明に近い染液になります この絹紡糸も綛糸で見ると桜色に見えますが、糸1本を手に取るとほとんど白に見えることもあります


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縞の配列は、淡いグレー4本の縞の間に太い濃いグレーの縞が3本あります さらにこの太い濃いグレーの両端に、細い極淡色のピンクの縞を入れます

糸本数 (淡いグレー…*RG 濃いグレー…*DG 極淡色のピンク…*P)
RG=40本(端) {DG=6本 P=2本 DG=32本 P=2本 DG=6本 RG=48本} { }内を2回繰り返し DG=6本 P=2本 DG=32本 P=2本 DG=6本 RG=40本(端)
合計で320本になります

糸本数で一番多いのは淡いグレーの48本で、この色は1色の無地になります また、濃いグレーは両端にグレーと極淡色のピンクの細かい縞になるので、こちらの大管の並びを優先させて32本しか立てられない大管立てを使います 細い縞の繰り返しの整経を優先する方が、混乱がなく早く終わります

輪整経で、濃いグレーと極淡色のピンクの縞、合計で48本の糸を整経するには24本の大管が必要になりますが、そうすると淡いグレーに8本の大管しか立てられなくなります なので、左右端の細かいのみ1回の整経で済ませるようにし、中の濃いグレーの縞は8本の大管を2回往復して本数を整えます 淡いグレーは48本ですから12本の大管を立てて、2回往復します

大管の必要本数は、淡いグレー…12本 濃いグレー…14本 極淡色のピンク…2本 となります

3色の必要な経糸の長さは、淡いグレー…176本×4.9m=862.4m 濃いグレー…132本×4.9m=646.8m 極淡色のピンク…12本×4.9m=58.8m となります 手引真綿3.5匁タスキの1綛は2540mですから、淡いグレーは1綛の約2/3、濃いグレーは約1/4は使用します ですが、計算通りに糸巻きをして整経の最中に糸が足りなくなったことは何回もあり、半ば懲りていますから、計算上の数字におよそ30%は割り増して糸巻きをすることにします 淡いグレーは1綛をすべて12本の大管に配分するつもりで、濃いグレーは半分弱程度に、極淡色のピンクは最も少なくていいので、糸車で手回し50回転を目標にします(綛かけに回転計かついているともう少し正確に数字が出せますが、自前の綛かけはついていないので、このようなアバウトな配分になります)


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糊付の際にあみそを分けたので、手引真綿3.5匁タスキの糸はスムーズに糸巻きが続きます 綛かけにかけた糸のあみそは、できるだけ維持します 途中で糸が切れた時に、あみその交差で糸口を見つけます 糊付が弱い場合には、あみその分け目の目印に綛かけの横棒に紐を結んであみそが混乱しないようにする方法もあります


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綛糸の状態の色と1本の糸になった時の色に、やや違いを感じることがあります 気をつけていても染める時にムラができることもありますし、真綿紬糸は毛羽が強いので色にオブラートがかかったように見えることもあります 綛糸で見る色と大管に巻いた時の色に、濃淡の差が思っていたほどないように感じましたが、これを整経するとさらに変わってくるだろうと思います


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極淡色のコチニールは、濃いグレーの間に微かに主張してくれたらいいなと思っていますが、大管から見る色の違いはなかなか強いようにも感じます


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糸巻きを終え、大管を大管立てに並べます

整経長は4.9mですから(整経台の手前の長さは1.5mなので)4.9÷1.5=3.266…となり、整経台の長辺を3回渡り(1.5m×3=4.5m)、4.9m-4.5m=0.4mを調整棒を取り付けて整経の長さを決めます


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今回の整経は、本数がさほど多くないことと縞の柄がはっきりしているために数え間違いがないので助かります あぜの柄を見るだけで、あと何回整経すればよいのかわかります

真綿紬糸の整経は毛羽によって糸が絡むことがあるので、あぜ取りところは神経を集中させますが、後はとにかく弛まないようにせっせと糸を延べていきます 最後にあぜをビニールテープで確保して整経終了です


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大管で巻かれた段階の糸とは違い、今度は本当に1本の糸たちの存在になった気がします

緯糸の糸染め

経糸の整経が終わった段階で、緯糸の染めに入ります 緯糸の糸や色の決定をどの段階で行うかはその時々で違いますが、糸種はすでに決まっていたこと、今回の半幅帯は全体にグレー調にしたかったこと、整経で見えてきた1本1本の色糸の強さ弱さなどを実際に確認して、どの天然染料を使用するかを決めたかったので、整経が終わってから染めることにします

染める糸は、真綿手引糸300回が6綛、230gです 選んだ天然染料は、使い慣れたヤマモモの皮で鉄媒染です(初めての天然染料がヤマモモの皮でした) ヤマモモはヤマモモ科の常緑高木で、樹皮を乾燥させて染料に使用します 以前は樹皮を大きく割ったものが購入できましたが、今は樹皮粉(樹皮を砕いた粉状のもの エキスではありません)が多いようです 乾燥した樹皮を自分で砕く手間はありませんが、樹皮粉と樹皮ではパーセンテージに若干の違いがあるようです

ヤマモモ皮は濃色で50%淡色で5%と幅が広く、今回は中色程度を目標に30%とします 鉄媒染の薬剤は木酢酸鉄を使用し、様子を見ながら10%と決めます ヤマモモ皮の鉄媒染は矢車の鉄媒染よりも黄色味があり、まったくのグレーの矢車の鉄媒染の経糸に対して柔らかい色味を出してくれることを期待します

緯糸に使用する手引真綿300回は、太さこそあれ真綿紬糸そのものです 水分の浸透がかなり遅いので、前の晩から熱めの湯に浸けておきます

ヤマモモ皮を染める準備も、前日から始めます

ヤマモモ皮の煎じ方は、本来1番煎じから3番煎じまで行い、その煎じ液をまとめて染液にします ただ、この煎じ方は前述した大きめの樹皮を自分で砕いたものには適しますが、樹皮粉に3番煎じまで行うと色が悪くなり、ヤマモモ皮の持つ本来の色味が出せなかった経験があり(この時は鉄媒染ではありませんでしたが)、樹皮粉の時に限り2番煎じまでにしています


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ヤマモモの樹皮粉の重さを計ります 糸量が230gですから、230×30%=69g…約70gになります


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70gのヤマモモの樹皮粉の7倍量の湯を沸かし(70g×7=490cc…約500cc)、沸騰したら70gのヤマモモの樹皮粉を湯の中に入れ弱火にして30分煎じます


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30分経ったら、ザルに布をかぶせてボウルに煎じ液を漉します この煎じ液が1番煎じです

続けて同じ樹皮粉に70gの5倍量の水を入れ(70×5=350cc)火にかけます 沸騰後30分煎じて、先程の1番煎じのボウルに同じように漉します 1番煎じが7倍量で2倍煎じが5倍量なのは、染料が水分を吸っているからです これが2番煎じになります


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このボウルに注いだヤマモモ皮の煎じ液を、一晩静かに置きます ヤマモモ皮は沈殿物が多く、一晩置いてから染める方が澄んだ色に染まります


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翌日、一晩置いた煎じ液をもう1回漉します ボウルの底にヤマモモの沈殿物が残り、煎じ液の上の濁りも漉すことで取れます


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澄んだ色のヤマモモの染液を含めた染浴を量り、タンクに注ぎます 液比は糸の重さの20倍で、230g×20=4600ccになります ヤマモモの染液に湯沸かし器のぬるま湯を注ぎ足して4.6Lになるようにします


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前日から湯に浸けておいた糸230gを脱水し、ヤマモモの染浴に入れます


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染浴の温度が上がるまで、丁寧に撹拌をします 今回のように糸量と染浴が多い時は、染色棒(竹の棒やステンレスの棒)でタンクの底から糸をひっくり返すようにして撹拌します 一見乱暴に思えますが、綛糸が染浴の中で充分に泳ぐくらいのタンクならば、染色棒を小さく動かすよりも大きく撹拌した方がムラがなく均一に染まります (この方法は、細い真綿紬糸や玉糸などはしません 今回の糸は太いので大胆に扱っています)


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沸騰後、30分煮沸します 30分経ったら、染浴が40度以下に下がるまで放冷をします

矢車の鉄媒染の時と違い、糸量が多いために染液も多くなっています このため放冷に時間がかかります 焦らずに気長に糸が冷めるのを待ちます 天然染料は、概して待ちの時間が長くなります ひとつの色に1日以上かけることは当たり前にあります 放っておいても染まってくれる、くらいに思っていた方が得策かもしれません


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約3時間後、40度以下に下がった染浴から糸を引き上げ堅く絞ります そして、残った染浴をふたつに分けます ひとつは木酢酸鉄を入れる媒染剤用です まず230gの10%の木酢酸鉄を量り(230g×10%=23cc)分けた染液に入れます 絞った糸をはたいてから入れてよく揉み込み、発色の様子を見つつ木酢酸鉄を加えるかどうかを決めます 今回は10%の木酢酸鉄で充分と判断します そのまま15分置きます 15分経ったら糸を上げ堅く絞り、もうひとつのヤマモモ皮の染液に揉み込んで浸け、約5分置きます こうして、糸についた鉄分で糸を錆びつかせないようにもう一度染めます(経糸の矢車の鉄媒染と同じです)


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2度目の染液から引き上げ、軽く絞って水で振り洗いをします 最初は黒く濁った色がかなり出ますから、ざっと洗って、脱水機にかけます そうすると脱水機が汚れません こうして、後はただ色落ちと鉄臭さがなくなるまでひたすら振り洗いを続けます

千巻と糸通し

経糸を粗筬、千巻と進めていきます 整経長が4.9mとさほど長くないことと、真綿紬糸をもとにして撚られた糸と思えないくらい扱いやすい糸のお陰で、千巻工程の間1度も糸が切れたり引っかかったりせずに順調にいきます


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今回、綜絖糸をワイヤーヘルドの30番、絹用の細いものを使います 40羽の丸羽で糸が混んでいることでワイヤーヘルドに経糸が接触して切れることを防ぐためです 絹用のワイヤーヘルドはワイヤー自体も細いですが、穴も小さくなっています


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そのため通常使用している綜絖通しでは穴に通らないので、細い絹用の綜絖通しを使用します 絹用の綜絖通しも細く、鉤の部分も小さくなっています うっかりすると曲がりそうですが、よほどの力を加えない限りは曲がりません


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ワイヤーヘルドはかなり混み合っていますが、筬目の具合は良いようです


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織り付けは経糸と同じ糸を入れます 青みがかったグレーなので、全体に暗く見えますが、その中で極淡色のピンクが強く自分を主張しているようです この織り付けは、半幅帯の端のかがりに使用します

緯糸を撚る

単の帯は緯糸を太くして織ります その太さは経糸の混み具合や糸種によって変えます 地場産業で織られる単帯ではそれぞれに決まり事があるように聞きますが、こうした創作帯は緯糸の太さも帯の厚さも堅さも、緯糸に使用する糸種も自由でいいと考えています


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今回の真綿紬糸を撚り合わせるという方法は紬織制作のテキストを読んで知ったことですが、その本では紡毛機で真綿紬糸を撚り合わせると書かれていました 紡毛機を使用すると早く出来上がりますが、紡毛機の扱いに慣れていないと撚る力が強くなりがちで、撚り戻り(撚りを付け過ぎて逆撚りで糸が収まろうとする S撚りが強すぎZ撚りで留まろうとすること)が起きることがあります 紡毛機で原毛を紡いだ後、蒸し器で蒸して撚りを止めますが、真綿紬糸は蒸しても撚り戻りは止められません

今回は、糸車で手引真綿300回の5本の糸を撚り合わせます

糸を合わせる方法に、引き揃えというやり方もあります これは複数本の糸を単純に1本の糸にまとめることをいいます 随分以前、引き揃えで緯糸を太くして織った綿の単帯で、織耳が今ひとつきれいに揃わなかったことがありました 複数本の糸を一体化させるために撚り合わせの作業が必要だったのだと実感しました


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下から経糸と同糸の織り付け 上は本数の違う緯糸の試し織

手引真綿300回の真綿紬糸を何本撚り合わせたら帯として適当な厚さと柔らかさが出せるのかは、試し織りをするしかありません ただ、試作で織った半幅帯の真綿紬糸の撚り合わせの太さを参考にしたことと、実際に3本、4本、5本と小管に少しずつ巻いて織って試すことでおおかたの直感で5本の撚り合わせでいいのではないかと決めます


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手引真綿300回の糸は初めて扱う糸で、おまけに複数本を撚り合わせるので、半幅帯1本分の使用量の目安がありません 6綛染めたものの本当にこれで足りるかは、実はただの勘だけです そのために手引真綿300回の糸を1本ずつ大管に糸車50回転巻いてそれを大管5本作り、その上でこの5本の大管を撚り合わせて緯糸を作って、まず織ってみることにします 50回転で何cmを織ることができるかを確認して、それから全体の必要量を計算します

糸車を使用して糸を撚る方法は、糸車のつもの尖った先端を利用します


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1本ずつ50回転巻いた大管5本を大管立てに、横並びではなく片寄せて立てます 5本の糸をたるませずにまっすぐにしてまとめます

大管は割り箸などをつもに一緒に挿さないと空回りしてしまいます つもに挿した大管からはみ出さないくらいに小さく短く削った割り箸を作り、大管が回るようにしておきます つもの先端は必ず出すようにします(割り箸に糸が引っかかると撚りにくいです)


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糸車のつもに大管と短めの割り箸を挿し、5本ひとまとめにした糸を2、3回手で巻きます 大管から5本の糸が外れなくなったら撚りを始めます 右手で糸車の把っ手をゆっくりと回し、左の指で5本の糸を大管の中央からつもの尖った先まで流れるように移動させます


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5本の糸をつもの先端に引っかけたまま、糸を抑えた左手を後ろ上に大きく伸ばします 大管立ての5本の糸が伸ばした分引き出されます 左の指で伸ばした糸を抑えたままの状態で、右手で糸車の把っ手を約1/4〜1/2回転させます そうすると、つもの先端から左後ろ上に伸ばして左の指で押さえている間の糸が糸車の回転で撚られます


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撚り具合を確認したら、つもに引っかかった糸を外して、撚った糸を抑えている左の指を大管の真上に移動させます この時、糸車を小刻みに回転させながらつもの方に片寄った糸も大管の中央に移動させます 撚りをつけた糸を大管に巻きます


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撚って巻いた糸を少しだけ戻すようにして、再び撚り合わせた糸をつもの先まで移動させ、糸をつもに引っかけます 左の指で糸を抑えながら左後ろの上、腕が伸び切るまで糸を伸ばします 右手で糸車を回転させ撚りをかけて、つもから糸を外して大管の真上に移動させて大管に巻きます これを繰り返します 糸は緩い撚りながらも一体化しています

これを続けていくと、撚られた糸が巻かれて大管が次第に太くなっていきます 大管が丸くなると糸が滑ってつもに移動しにくくなるので、そのようになったら大管を交換します

この方法は糸車を回転させることで撚りをかけるために、糸車を多く回せば撚りは強くなります どのくらいの撚りがいいかは、その時々の制作の意図で決めます 糸車の撚り付けは時間はかかりますが、丁寧な撚り方ができます 今回のように5本の糸を一体化させる程度のことであれば、これで充分だと判断します

織り方を反省 

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大管1本50回転の5本撚り合わせの糸を、小管に巻きます 撚り合わせてあるので糸が分離することはありませんが、糸が太いために小管がすぐに丸くなります こんもりと丸い程度に巻きます このように太い緯糸を小管に巻いて糸を切る時、できるだけ糸を斜めに切ります そうすると、緯糸の糸端と糸端の重ね合わせが自然になり、緯糸の交換の跡がわかりにくくなります


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50回転の緯糸は小管にして約20個です これで何cm織ることができるかを確かめます

今回、高機の男巻にはギアではなく、締め皮を使用します 締め皮と握り棒は何度か使用したことはありますが、今まで常備していませんでした マフラーやショールの制作には必要を感じなかったからです


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強い打ち込みが必要な帯や着尺の場合、経糸の張り具合で緯糸の収まり方が微妙に違ってきます この微妙な違いが織りムラになってしまいます ギアはその時々の歯車の位置加減で、経糸の張りが均一にならないことがあります それを解消するためにギアの把っ手に重りを下げる方法もありますが、これは個人的に苦手なので、昔から着尺を織るために使われてきた締め皮を選び、新たに購入しました 道具は使い慣れるまではある程度時間がかかるものですが、正しい使用法と丁寧な扱い方をすれば、自然と体に馴染んでくるものです

本織り開始です 緯糸も決まり、久々の強い打ち込みの織布とあって(試作の半幅帯は織りましたが)、とても心地よく筬柄を打ち込んでいました 本織りを始めてから40cm辺りで、作業はいったん中断 主宰する教室の曜日は、いらっしゃる方たちに機を譲ります 前日の夕方には機の糸を入れ替え、織物制作は次回のお楽しみに…

教室をやっていてよかった、と思うことがあります
その当時まだ通われて日の浅い方に、同じように半幅帯の強い打ち込み方の説明をしていた時です
「踏み木を踏んで、緯糸を入れて、筬柄の中央でしっかりと1回打ち込み、踏み木を踏み替えてからもう1回筬柄を打ち込みます」と言ってから自ら実演してみせた時、その方が仰ったのです

「言っていることとやっていることが違うみたい」
(…え?)と思い、次に(違っているのかな、)と不安になりました

その翌日、自分の半幅帯を機にかけて、機の横に脚立を立ててデジタルカメラを足場に置いて、ビデオで自分の織っているところを撮りました

その方の仰った通りです 実際の織っているタイミングは、ー踏み木を踏んでー緯糸を入れてー1回筬柄で打ち込みーさらにもう1回筬柄を打ち込みながら踏み木を踏み替えているーというものでした

1回目の打ち込みは、杼から出る緯糸の張りや織耳を調節しつつ打ち込むもの その直後に踏み木を替えると綜絖が上下するために打ち込んだ緯糸が浮き上がります その浮き上がりを抑えるためにもう1回打ち込む必要があります が、このやり方だと2回目に打ち込みながら踏み木を替えているので、浮き上がった緯糸の抑えの意味がありません この段の緯糸の抑えは、次の段の緯糸を入れた時の筬柄の打ち込みにお任せになってしまいます それはそれで織れますが、全体に打ち込みが弱くなり、帯のしっかりした堅さを望むことはできません

以前着尺を織っていた時はどうだったのか それはよく覚えていません ですが、随分長いこと40羽の丸羽で扱うような細い糸を織っていなかったことと、強い打ち込みでしっかり織る織布をやっていなかったことで、筬の打ち込みと踏み木の踏み替えるタイミングがずれていたようです 確かにショックですが、これを指摘してくれた方には本当に感謝しています(ご本人は覚えていらっしゃらなかったか、その振りをしてくださったけれど)

とにかく間違いは直さねばならない、と、頭の中で日頃言っていることを反芻しつつ、再び半幅帯の織りに入ります
踏み木を踏んでー緯糸を入れてー筬柄の中央を掴んで1回打ち込みー踏み木を踏み替えてーもう1回打ち込む

最初の30分程はゆっくりと呪文のように唱えていますが、次第に体が頭に追いついてきたようです 10cmほど織ったところで間違った打ち込み方をしていた先日までの織り面と比べてみます 見た目はさほど違いはありませんが、わずかに最初の40cmの方が柔らかい感触がします それよりも不思議なのは緯糸の出方です よく見ると、緯糸の傾斜が先日までの方が緩やかです これは確かに打ち込みが足りないことの表れだ、と海よりも深く反省します…

久しぶりに強い打ち込みをして、もうひとつ思い出したことがあります それは、手首の使い方です

早く早くと気ばかり急いて織っていた時期には忘れていたことですが、ゆっくりと織っていると筬柄を掴む手首を柔軟にひねることができるようになっています 筬柄を織前に打ち込む時、腕で引き寄せるのではなく(無論腕も使いますが)手首でひねって打ち込む方が自然な動きになります その分手首に負担がかかりますが、腕全体を動かして織っていると無駄な動きが多くなり、打ち込みにムラが出やすくなることがあるだろうと感じます

なるほど、なるほど、とひとりで考えているところ、順調に織り進み、小管がなくなりました 大管50回転の糸巻きで撚った緯糸は、約60cmの必要量ということがわかりました 半幅帯として必要な長さは3.5mです 織縮み分を25%足していますが、実際に織る長さは試作の半幅帯の時と同じか、やや長めに3.8mほどになるだろうと予想します 380cm÷60cm=6.333…、50回転×6.3=315回転 手引真綿300回の枠周は1.11mで、糸車の1回転の長さは約1.5m (ただし、これは糸により誤差があります)

1本の大管に315回転巻いた糸を5本撚り合わせて、目的の長さになる計算です
染めた糸は6綛ですから、1.11m×300=333m(1綛の長さ) 333m×6綛=1998m(6綛の長さ)
一方、1本の大管に315回転×1.5m(糸車の1回転の長さ)=472.5m 472.5m×5本=2362.5m(5本の大管に巻く糸の全長)
1998m-2362.5m=-364.5m 計算上は足りなくなります
…ですが、もう織り始めていますし、前述のように糸車の回し方による使用量の計算は誤差がつきものです

日頃の楽天主義も手伝って、6綛使い切るつもりでこのまま織ることにします

こうした時緯糸が足りなくなったら、改めて不足分の糸染めをします が、天然染料は必ず同じ色が出るとは限りません 同じような色味にはなるだろう、くらいの曖昧さです よほど足りないならば色味が曖昧でも染めねばならないと思いますが、半幅帯は特に規定の長さがある帯ではないので(3.5mはあくまで個々の基準で、結び方によってはもっと短い半幅帯もあります)、短い半幅帯ならそれなりの結び方を楽しめたらいいかな…と切り替えます

計算上は大管1本315回転ですが、そんなに多く巻くことはできないので、80回転ずつ大管に巻いて糸を撚り合わせることにします これでも真綿紬糸が太いので、かなりの量の太巻きです 大管に巻いて、糸を撚り合わせて小管に巻いて織る これを3回ほど繰り返します


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再び織り始める前に、男巻の結び目を切り、半幅帯を男巻に直接差し込みます こうすることで男巻が自分のお腹に密着して、打ち込みの度に自分の体を打っている感覚になります 機と一体化する、という感覚を味わいます

帯を織ることとして一番気を使うことは、打ち込みもそうですが、織耳の美しさも大切です 単の帯は、縫製はほどんどせずに織布をそのまま帯としての目的で使用するために、織り手の技量がそのまま出ます その点、とでも怖い制作です 同じように織布をそのまま使用するショールも、やはり織り手の性格や態度が如実に反映されるのでかなり気を使います 違う点はショールはねじったり、巻き込んだりして使うことで、必ずしも織耳のみを見せることはありません 帯は同じく巻きますが、織耳は必ず目につく場所です 手引真綿300回の糸を撚り合わせたことで5本の糸がひとつになり、織耳から糸が分離してはみ出すことはなく、この点は手間をかけて正解だったと思います


織

反省の多い半幅帯になりましたが、肝心の緯糸の量は無事足りるようです 手引真綿300回の糸を残り10gを残すところで3.8mを織り終わり、経糸も最初の予定よりも余裕があまりなく終わりに近づきます せめて織り見本を織りたかったのですが、それも無理のようです

綜絖枠の後ろで経糸を切ります

仕上げ

経糸が切れることはなかったので、糸の始末はなくて済みました ところどころ真綿紬糸の毛羽が織り面からはみ出しているので、それだけ鋏で切り揃え、水通しの仕上げにかかります


織

水を張った流し台に屏風たたみにした半幅帯を入れた時、織布の中まで水が染み込むことが遅く、手で抑えないと浸透しません 織り上がり後の織布の状態でも真綿紬は水の浸透が遅いことが目に見えてわかります そのため、2時間程水に浸けることにします


織

それでも充分水を吸った半幅帯は、織り目が締まっていかにも帯らしい様子になっているようです 脱水はせず、水がしたたったままの状態で、晴天のもと物干竿で干します

乾いた半幅帯の長さの変化は、機から下ろす前 380cm →仕上げ前 372cm →仕上げ後 354cmとなります 仕上げ後の長さから織り上がり直後の機から切り離す前を割ると、この素材で織る織布の織縮み率が割り出されます これは今後の参考になりますから、必ず記録をとります


織

半幅帯の両端を切り揃え、まつり縫いのかがりをします


織

半幅帯の完成です


最後に、打ち込みのタイミングのずれをやんわりと指摘してくださったC.Oさんに、あらためて感謝いたします


参考文献


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