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HARUの織物制作「玉糸でショールを織る」

ショールを織ろう、と思う

手紡ぎマフラー
手紡ぎマフラー
麻と絹のマフラー
麻と絹のマフラー

ここ数年、着尺を織っていますが、その他の織物を拒絶しているわけではありません。 今、織りたいものがいっぱいあります。ラグ、カーテン地、マットなど、日常使いの布を自分で織って使いたいと思っています。

織物倶楽部に通われている方々は、「家族のために作りたい」「家の中を飾りたい」「織布で雑貨を作りたい」と、自分と自分の周囲の人たちのために染めて織ることの楽しさを体現していらっしゃいます。それを身近で見るにつけ、こういう楽しさが本来の織物なのかな、と思い直しています。
わたしには、染織は欠かせない仕事です。でも、仕事だからこそ楽しむ。楽しみ方は、ひとつではないから。

初めて布を織る時に、手習いがてらにマフラーやショールを選ぶことが多いのですが、秋冬だけでなく一年中使い道が多い織布です。季節に添った素材を選び、自分や贈る人に似合う色を染める、ごく自然なことですが、一番楽しいことだと思います。

心向くまま、あれも織りたい、これも織りたい、と思う日々ですが、時間にも糸にも限りがあります。
今回、ショールを織ろう、と思い立ったのは、着尺を織った絹糸の残りがたまり始めたことと、これらの糸の柔らかさ美しさを別のかたちで活かそうと思ったからです。


玉糸

今回ショールに使う糸は、「玉糸」という絹糸です。
玉糸は、1つの繭の中に2つ以上のサナギがいる蚕からひいた糸で、節が多く生糸よりも太いのが特徴です。110中、60中の糸が主です。
*「中」については、織物の工程「単位」をご参照ください。
110中2の片撚の玉糸は着尺制作の経糸に不可欠な糸で、わたしにとっては定番中の定番です。細さは220d、鯨寸間50羽の丸羽で真綿紬の緯糸を入れて織ります。110中2だけではのっぺりした布になりがちなので、玉糸に生糸を付けた糸や真綿紬糸を加工した糸を混ぜたりします。
着尺は経糸の本数が多いことと長いことが特徴です。単純な計算では綛数で7綛あれば充分なのですが、経糸の配色や意匠によってそれ以上の量を糸染することがほとんどです。
*注:鯨寸間50羽の丸羽、経糸整経長が15m、玉糸の綛の枠周が1.27m、上げ数が2000回の場合です。
着尺に限らず経糸緯糸ともに足りなくなるよりは多めに染めておく方が安心ですし、実際計算通りに糸が間に合うことはほとんどありません。そこは人の手によるものですから、加減の強弱があろうかと思います。
好きという思いだけで着尺を織り続けましたが、手元にはそれらの着尺の中に入れなかった糸たちが残りました。ほとんどが、玉糸110中2です。
玉糸がショールに向くかどうか、心配はあります。
心配のひとつ、精錬済みの玉糸はとても柔らかく、肌に心地良く吸い付きます。この柔らかい経糸に真綿紬糸を緯糸にしているからこそ、素朴で張りのある風合いが生まれます。柔らかさだけでは張りがなく頼りないのではないか?
もうひとつ、着尺制作のために糊付をしてあります。織布の用途が着尺でなくとも、糊付をしないと糸巻きもできない糸です、着尺の時は湯のし屋さんに依頼して糊を落としてもらいますが、ショールはなるべくなら自分で仕上げまで行いたいと思っています。肌に気持ちのいい柔らかさを、自分で整えてみたいのです。
考えてばかりでは何も始まらない、思い立った時がやる時。
ふんわりと軽いショールを、玉糸で挑戦してみたいと思います。

経吉野織(たてよしのおり)

経吉野織
経吉野織
緯吉野織
緯吉野織

個展活動を中心に織物制作をしていた時期があります。1年に1〜2回、1週間のささやかな展示でしたが、毎回テーマを決めてマフラーやショールを始め、ブックカバーやコースターを織っていました。
2010年秋の個展のテーマは、「吉野織」でした。ブックカバーやコースターは経吉野織や緯吉野織(よこよしのおり)の厚手の織布を織りました。
吉野織は、経糸の通し方と踏木の順序、打ち込みの加減で、織布面に湾曲ができて模様になる織り方です。


ショール

個展の中心になる作品は、マフラーとショールです。吉野織の湾曲を活かして、ふたつの素材を使って織ってみました。
主な経糸に、絹紡績糸60/2、太さの単位では300d(デニール)。一部経糸に柞蚕大條糸(さくさんだいじょうし)の細糸、太さは990dを使用しました。緯糸は、経糸と同じ絹紡績糸60/2です。
写真は、この時のショールのひとつです。含金錯塩染料で染め、青く見えますが経糸の地の色は黒に近いグレーで、絹紡績糸60/2。赤く浮き出た経糸は柞蚕大條糸。緯糸は、経糸と同じ色の絹紡績糸60/2です。


経吉野織.基本図

絹紡績糸60/2で隙間がなく詰め過ぎない布を織るには、鯨寸間40羽の丸羽が相当です。ショールの筬に選んだのは、20羽の丸羽でした。筬目半分の粗さの中で、経糸と緯糸がどれだけ動いてくれるか、また、ショールとしての張りは保たれるか、やってみないとわからないことばかりでしたが、組織としては面白いものができるかもしれないと思いました。
経吉野織の基本組織図です。


経吉野織の湾曲

なんの変哲もない組織図ですが、どこの経糸が湾曲しているかを探します。赤く書いた曲線の形に経糸と緯糸の湾曲ができます。


拡大した経吉野織のショール

拡大した経吉野織のショールと比べてみます。細い経糸の中に、太い経糸が緩やかに湾曲しています。


経吉野織の経糸配列

*組織図の読み方については、「染織基礎知識・組織」をご参照ください。
組織図内の赤い曲線は、平織部分と隣り合う経糸の浮きで織られる3本の緯糸が束になっている箇所にあります。経吉野織の緯糸は、経糸が緯糸を結束した状態で交互に織り、その結束が隣の平織の角の部分を歪ませて湾曲ができます。
この経糸と緯糸の歪み加減を利用して、様々な模様を織るのが経吉野織です。
1枚のショールの中で、全て同じ経糸にしてもその湾曲はできます。平織部分と経糸の浮きの部分の境の経糸を太くして、色の相違を見せることで、湾曲は強くなります。
そのために経糸の配列を組み立てて行きます。平織部分と経糸の浮きの部分の境の2本ずつの経糸を柞蚕大條糸にし、それ以外の糸は絹紡績糸60/2にします。組織図の経糸配列で、赤い箇所が柞蚕大條糸、黒い箇所が絹紡績糸です。

今回、この2010年の経吉野織ショールを基にして、玉糸で織ってみたいと思います。

意匠と織計画

わたしの好みですが、大判のショールをざっくりと首に巻くのが好きで、自作の50〜60cm幅のショールを無造作に握ってざざっとマフラーみたいに巻いてしまいます。そうすると、とても暖かいのです。
そうした使い方のショールは薄い方が扱いやすいのですが、では、どのくらいの薄さにするか。頼りない程薄くなるのは避けたい。でも、軽さは欲しい。
玉糸の片撚は、独特のふくらみを持っています。節(ふし)があることもそうですが、染めると糸なりが空気を含んだようにうねります。糊付をすると硬くなりますが、糊を除くとふたたびふくらみを取り戻します。
軽くて空気をまとっているような、そういうショールを織ろうと思います。

1. 糸選び


染めてある玉糸

既に染めてある玉糸の中から使いたい糸を選びます。
絶対条件は、ショール2枚に足りること。そして、できれば誰にでも似合いそうな、無理のない色。
着尺制作のために染めた色は、必ずしもマフラー、ショールに合うものばかりではありません。
色の好みは人それぞれですが、年齢や肌合いによって馴染まない色もあります。薄い黄色や茶色は、顔がぼやけてしまうので避けたいと思います。
染め糸を入れた箱の中で、強烈すぎるくらい派手できれいな糸がありました。
写真は、着尺制作使用前ですので完全な綛状態です。実際には、かなり目減りしています。

すべてコチニールで染めた糸です。コチニールは、媒染剤の明礬と酢酸の調整で、紫味が強い色から淡いピンクまで染められる堅牢度の良い動物性天然染料です。この糸を染めた時は、紫から赤への対比の美しさを着物で表現したかったのですが、色数が多かったので、その分余剰分も出ました。
今回使ってみようと思った玉糸は、陽の光で反射している糸で、右の2綛のピンク、中央の中程度の赤、左から3番目の紫味のある赤の3色です。(その他の糸は真綿機紡糸で、光沢はありません)
さらに、別の着尺制作で使用した玉糸110中生糸付という糸もありました。この糸は110中の糸に生糸をつけたもので、110中2よりも毛羽立ちが多いのですが、面白みがある糸です。やはり、コチニールの紫です。


コチニールで染めた糸

*媒染の方法、コチニールの染め方は、「糸染の工程」をご参照ください。
糸種:110中生糸付
媒染:カリ明礬 7%(先媒染)
染料:コチニール 10%
助剤:氷酢酸 10% 氷酢酸はコチニールの染浴に入れます。


コチニールで染めた糸

糸種:110中2片撚
媒染:カリ明礬 5%(先媒染)
染料:コチニール 6%


コチニールで染めた糸

糸種:110中2片撚
媒染:カリ明礬 3%(先媒染)
染料:コチニール 6%


コチニールで染めた糸

糸種:110中2片撚
媒染:カリ明礬 2%(先媒染)
染料:コチニール 2%

上記4種のコチニールの糸を、経吉野織の縞の湾曲に用いたいと思います。


楊梅皮で染めた糸

それに対して、上記の赤や紫の縞糸に挟まれた地糸ですが、以前染料の計算間違いで結局使用しなかった玉糸があり、ずっと気になっていたので、今回使おうと思います。
糸種:写真右の4本 110中2片撚
   写真左の4本 60中生糸付
染料:楊梅皮 16%
媒染:木酢酸鉄 8%(後媒染)
   注*鉄媒染は後媒染です。詳しくは「糸染の工程」をご参照ください。


2. 意匠

経糸配列と筬目、糸本数
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前述の経吉野織の基本組織図のように、綜絖の通し方は『1−3−1−3』のAパターンと『2−4−2−4』のBパターンの繰り返しになります。それぞれが経糸2本の倍数で織ることができます。
コチニールの糸は、湾曲の流れを表す経縞として『1−3』と『2−4』の際(きわ)の部分にそれぞれ2本ずつ、AパターンとBパターン合わせて4本配列します。
何度も繰り返して恐縮ですが、110中2は220d、110中生糸付は230dです。地糸にする糸も110中2ですので、双方同じ細さになります。湾曲を強調するには、コチニールの糸をもっと太くする必要があります。例に記した2010年のショールは地糸の絹紡績糸が300d、湾曲する糸の柞蚕大條糸が990dで、3倍以上の差がありました。
そのため、コチニールの縞糸を2本どりで1本の糸にして太さを2倍にすることにします。前例のショールの3倍には細いですが、色の対比で充分に目立つのではないかと思います。2本どりにする方法は、整経で行うのが1番安全できれいなので、大管の数で調整します。
それぞれ色味の違う4色のコチニールの経糸の配列ですが、どのくらいの配色が適当なのか、これはやってみないとわからないところです。綛の玉糸の色を見ながら、想像と気分での意匠図を描きます。(実際の制作は紙面に描きましたが、ここでは画像にしています)
濃いめの紫 = p(purpleの略)
紫味のある赤 = a
中程度の赤 = b
ピンク = c
注:画像の制作上、隣り合うp、a、b、c、の線が離れていますが、実際は筬目1目に2本どりで1本にした玉糸が2本並びます。

当初、織幅を15.7寸(約60cm)にする予定でしたが、経吉野織のAパターン、Bパターンをそれぞれ0.4寸ずつに設定し、そこから計算し直して実際の織幅は15.6寸になります。
15.8寸 ÷ 0.4寸 = 39.5リピート
39R(repeatの略) × 0.4寸 = 15.6寸
画面上は無地になっていますが、実際はグレーの地糸を挟んで、同じ色の2本どり1本の糸が2本並びます。aa--地糸--aa-bb--地糸--bb-cc--地糸--cb-…というように、地糸を挟んで同じ色の経縞が緩やかに湾曲するイメージです。そのため、2本どりで1本のコチニールの糸は、濃淡違いの4本1組で隣り合わせになります。濃いめの紫pのみ、数筋隣り合わせになっています。

3. 織計画

*筬の単位は全て鯨寸間です。
今回使用する玉糸110中2片撚は220dで、この糸で布らしい布を織るには50羽の丸羽が相当です。この糸を経糸にしてショールを織るにはどのくらいの筬がいいのか。40羽か30羽か、または半分の筬目の25羽か。
試しに110中2を筬に通してみると、25羽の丸羽は粗すぎて頼りなくなってしまう。40羽はやや緩めでちょうどいいかなと思いつつも、糸と糸の間で自然に起きる動きを期待するには少し物足りない。
筬は、30羽が適当ではないかと決めます。

筬)
30羽/丸羽
幅)
60cm ≒ 15.7寸 → 15.6寸
長さ)
200cm + 20cm(房分) × 2枚
整経長)
200cm + 20cm = 220cm × 2枚 = 440cm + 50cm(捨て分) = 490cm = 4.9m
経糸全本数)
30羽 × 2(丸羽) × 15.6寸 = 936本
糸全長)
936本 × 4.9m = 4586.4m
リピート数)
1リピート → 0.4寸 (Aパターン、Bパターン、それぞれ1リピートと考える)
15.7寸 ÷ 0.4寸 = 39.25リピート → 39リピート
39リピートの織幅訂正
39リピート × 0.4寸 = 15.6寸 → 15.7寸の織幅を15.6寸に訂正
各色全長)
1リピート 0.4寸の糸本数 → 30羽 × 2(丸羽) × 0.4寸 = 24本
1リピート 0.4寸の筬目 → 24 ÷ 2 = 12目
・地糸
1リピートの筬目 12目 - 2目(経縞の分) = 10目
10目 × 2(丸羽) = 20本 × 39R(リピート) = 780本
780本 × 4.9m 3822m
・濃いめの紫(p)
2 × 2(2本どりを2本) = 4 × 2目 = 8本 × 18ヵ所 = 144本
144本 × 4.9m = 705.6m
・紫味の赤(a)
2 × 2(2本どりを2本) = 4 × 2目 = 8本 × 6ヵ所 = 48本
48本 × 4.9m = 235.2m
・中程度の赤(b)
2 × 2(2本どりを2本) = 4 × 2目 = 8本 × 8ヵ所 = 64本
64本 × 4.9m = 313.6m
・ピンク(c)
2 × 2(2本どりを2本) = 4 × 2目 = 8本 × 8ヵ所 = 64本
64本 × 4.9m = 313.6m
大管本数)
地糸 … 10本
p … 4本
a … 4本
b … 4本
c … 4本
大管順)
大管順
地糸のうち、上段は110中2、下段は60中生糸付にします。また、コチニールのp、a、b、cと地糸の間隔を2列空けます。
糸巻き回数)
110中2、110中生糸付、60中生糸付の綛の枠周 … 1.27m

・地糸 3882m ÷ 10本(大管本数) = 382.2m ÷ 1.27m(枠周) = 300.9回 → 310回
・p  705.6m ÷ 4本 = 176.4m ÷ 1.27m = 138.8回 → 150回
・a  235.2m ÷ 4本 = 58.8m ÷ 1.27m = 46.2回 → 56回
・b  313.6m ÷ 4本 = 78.4m ÷ 1.27m = 61.7回 → 70回
・c  313.6m ÷ 4本 = 78.4m ÷ 1.27m = 61.7回 → 70回

整経〜粗筬〜千巻


大管立ての様子

糸巻きを終え、大管を大管立てに立てます。
実際の大管立ての様子です。


整経の方法1

今回の大管の立て方は、変則になります。自前の大管立ては32本の大管しか立てられません。そのためもあり、地糸を真ん中にして縞になる色糸を左右対称に立てます。大管立ての釘をひとつ置きにしているのは、あぜの取り間違いを防ぐためです。
0.4寸の中で、地糸のグレー20本は毎回入ります。20本のグレーは、「p(濃いめの紫)」「a(紫味の赤)」「b(中程度の赤)」「c(ピンク)」のうちの同じ色に左4本右4本ずつ挟まれます。経糸本数としては左2本右2本ですが、2本どりの糸を1本として使用するので、使用する糸としては4本になります。2本どりで糸を弛ませずに引き揃えるには、整経で同じ張力で整えた方が正確にできます。p、a、b、c、の大管本数が上下2本ずつなのはそのためです。(大管本数 × 2 = 1回の整経の糸本数)
そうしたことから、この大管の配置が1番やりやすいだろうと決めます。
経糸の配列図の左から整経を始めていくと、1番左の「a--地糸--a」の整経は図のようになります。
aの上段下段の左2本右2本の大管の糸と地糸の上段下段の10本の大管の糸を同時に整経します。この並びであぜをとると、a-4本--地糸-20本--a-4本の経糸が整経されます。


整経の方法2

次の配列の「b--地糸--b」の整経は図のようになります。
bの上段下段の左2本右2本の大管の糸と地糸の上段下段の10本の大管の糸を同時に整経します。aの大管は休ませておきます。
この整経は、b-4本--地糸20本--b4本の並びになり、1回目の整経の上にこの並びがのることで、aの経糸の上にbの経糸のあぜが重なります。


整経の方法3

さらに次の配列の「c--地糸--c」の整経は図のようになります。
cの上段下段の左2本右2本の大管の糸と地糸の上段下段の10本の大管の糸を同時に整経します。a、bの大管は休ませておきます。
この整経は、c-4本--地糸-20本--c-4本の並びになります。2回目のbの経糸のあぜの上に、cのあぜが重なります。


整経の方法4

「a--地糸--a」「b--地糸--b」「c--地糸--c」は、濃い色〜淡い色のグラデーションの繰り返しになっていますから、これを繰り返す箇所は、これらの整経を続けていきます。
赤のグラデーションでない配列のところは、pの濃いめの紫が20本のグレーの経糸を挟みます。合計で19ヵ所ありますが、ここは「p--地糸--p」の整経になります。
pの上段下段の左2本右2本の大管の糸と地糸の上段下段の10本の大管の糸を同時に整経します。a、b、cの大管は休ませておきます。

地糸のグレーは常に使っていますが、縞のp、a、b、cは柄ゆきにより休ませることが多くなります。大管立ての本数に限りがある時、こうした整経は比較的行うことですが、休ませる糸の処置が甘いと整経の糸が絡むことがあります。コツは、整経台を大管立てからやや前に引き出して間隔を空け、休ませる大管の経糸は必ずその大管の真下に下げでおくことです。休ませることで、前回の整経台に張った糸が弛むことがありますが、この糸を再び使う時にやや強めに張って経糸の張りを均一にさせます。
また、今回のように綿密に色を変える整経は、得てして縞の柄ゆきが間違えやすくなります。脇にデザイン図を置いて、「ここの縞は終了、次の色は?」というふうに、面倒でもチェックを欠かさないことが大切だと思います。


30羽の粗筬終了の写真

30羽の粗筬終了の写真です。
見た目、グラデーションの違いがわからないので、やや不安ではありますが、一応織幅は計画通り、縞の順序もチェックを怠りなく進めたので大丈夫そうです。


千巻

粗筬からすぐに千巻に入ります。4.9mはさほど長い経糸ではないことと、110中2の糸を30羽で扱うので着尺の千巻に比べたら楽です。
ただ、60cmの千巻箱にぎりぎりの15.6寸(約59cm)の経糸を巻くので、機草をこまめに差し入れて千巻箱からこぼれないように丁寧に巻いていきます。
60cm幅の経糸は、両端の糸と中央の糸との張りの違いが出ます。両端の張りがきつくなるのに対して中央の張りがが弛むるせいで、これは仕方のないことです。整経では同じ長さに整えているのですから、できる限り均等に経糸を張り続けて千巻を行います。最初の段階は通常のやり方で良いのですが、千巻の終わり頃になったら、60cm幅を半分に分けるように経糸を張り替えていくと最後までゆるまずに巻くことができます。
千巻に巻かれている時の方が、色の違いが浮き出ています。


今回のショールに限らず、110中2(220d)のような細い絹糸は、あまり時間をかけずに整経、粗筬、千巻まで進める方が糸が乱れません。糸が乱れるとは、あぜの取り違い、あぜ返しのミスというひとつの工程がきっかけで起きやすいものですが、それだけではなく、家の中の空調、湿度、ふとした接触だけでも血が引くような乱れ方をすることがあります。
また、玉糸は生糸ほどではないですが、滑りやすい糸です。千巻が終わった後に筬を抜きますが、その時の経糸の結び方を小さく緩くしておくとあぜ棒が抜けてしまうこともあります。結び方は大きくしっかりと、でもすっと解けるように結ぶことが絡まらずに乱れない結び方です。
絹糸、特に生糸、玉糸のように繭から直接ひいた糸は、やはり生きている、と感じます。


千巻箱に収まったショールの経糸

千巻箱に収まったショールの経糸です。

綜絖通し


綜絖の通し方

千巻箱を織機にセッティングして、綜絖通しの開始です。
今回のショールは2枚分ありますが、綜絖の通し方は2枚とも同じです。1度通したら、余程のことがない限りは入れ替えることはできません。
綜絖の通し方です。1−3−1−3…を24本繰り返し、2−4−2−4…も24本繰り返します。1−3−1−3と2−4−2−4の最初と最後の綜絖2本に経縞になる色糸が入ります。1−3と2−4の際の綜絖で色が変わります。


綜絖の通し方2

2本どりで1本にする色糸の通し方ですが、あぜ棒にはグレーも色糸も2本ずつ交差しています。グレーの糸は交差している2本の糸を分けて、1本ずつワイヤーヘルドに通します。色糸は、交差している2本の糸を2本ごとワイヤーヘルドに通して2本どりを1本としていきます。こうすることで、グレーの糸と色糸の太さの違いがはっきりしてきます。


綜絖通し

順通しでなくとも、綜絖通し自体は同じです。綜絖通しのミスを防ぐには、1−3−1−3…のパターンの時は、1番綜絖を12本、3番綜絖を12本、ワイヤーヘルドの束から離して通していくと、間違いが少なくなります。


男巻布に経糸を結び付けた様子

綜絖通しと筬通しを終えて、男巻布に経糸を結び付けた様子です。


経吉野織の模様 1枚目

踏木の基本

経吉野織は、前項の綜絖の通し方で模様の幅が、踏木の踏み方で長さに変化が出ます。
経吉野織の踏木の基本です。5−2−5…a、6−1−6…b、5−1−5…c、6−2−6…d、この4パターンを順次繰り返して織ります。このうち、aパターンとbパターンは同系列に類し、平織部分が同じで経糸の浮きの部分が交互になって緯糸をおさえます。cパターンとdパターンも同様で、通常a--b、c--d、がセットになって経吉野織は織られます。


織り始めの糸

最初の試し織りで、a--bとc--dの段数を決めます。写真の織り始めの糸は経糸を押さえるためのもので、織り上がった後に抜きます。
このように、平織に挟まって緯糸の束を経糸が締めるような織り方になります。その際(きわ)を色糸が入ります。


緯糸

緯糸も110中2の玉糸です。経糸と同じ色味でやや濃い糸です。同系色を緯糸にして色糸を強く出したいと思います。
緯糸
染料:楊梅皮 50%
媒染:木酢酸鉄 20%(後媒染)


経吉野織1

何段か織って、図のような段数にしようと決めます。a、b、c、d、それぞれ5段ずつ、均等に進めていきます。


こうした細い絹糸を緯糸に織る時の杼は、細身でやや長めの絹杼(きぬひ)を用います。写真では小管を通す芯棒は竹ヒゴですが、真鍮のバネ式の芯棒もあります。着尺を織る時の経糸の開口は、摩擦を抑えるためにやや小さくします。また、幅が約38cm(1尺)なので、長めの杼を使って杼を入れる速度を弱めて静かに受け取るように織ります。
ショールの長さ200cmを織るために、紙テープに長さの目印を書き込んでメジャー代わりにして、織面に待ち針で付けて織ります。紙テープでなくとも、布テープでも構いません。このテープは織った布を巻く男巻には巻き込まず、待ち針を付け替えて表に出したままにしておきます。巻き込むと、長さが正確になりません。


グラデーションの効果

経糸の張り加減は、やや強めです。今回、経糸を張る道具は締め皮を使っています。ギアでも織れますが、締め皮の方が常に均一に経糸を張ることができます。ただ、これは慣れもあります。実際は、ギアを使う人の方が多いかと思います。
筬柄の打ち込み具合は、軽いです。抑える程度でも織ってみましたが、平織部分が緩くなりがちで、経糸と緯糸が充分に抑えられていないように思えたので、軽くタン、と筬を織前に打ってから踏木を踏み替えて、もう1度抑える程度に筬を引き寄せて次の段に進みます。
200cmの中程まで織った辺りの写真です。5段ずづの均等な平織と経糸の浮きの繰り返しは、やや単調にもみえます。
執着した(?)コチニールのグラデーションの効果は、織っている最中はあまり感じられずにがっかりしましたが、写真に撮るとそれなりに見えているのでちょっとホッとしました。

マフラーやショールは、1枚分を1日で織るようにしています。それは、1枚の布の中で織りムラがあることを防ぐためです。最初から最後まで同じ張りで同じ打ち込みで、集中して織る方が織りムラや踏み順ミスなどは避けられます。と言うものも、玉糸は細くてなかなか進みません。着尺を織っている時程ではないですが、玉糸特有の毛羽立ちの経糸同士の引っかかりもあり、神経を使う糸と織り方ではあります。結果、1枚を織るのに日にちで1日半くらいはかかりました。
実のところ、1枚目に使用した緯糸の玉糸110中2で、2枚目も織るつもりでいましたが、思ったよりも糸を喰い、(計算外に糸を使った時こういう言い方をします、わたしだけかもしれませんが、)200cm織るつもりが185cm織ったところで糸がなくなってしまいました。ショールとしては185cmあれば充分ですが、2枚目の緯糸を探すことになります。

経吉野織の模様 2枚目


玉糸

引き出しをあちこち探しても似たような色はなく、かといってとりどりの色をざっくばらんに入れて、見せたかったコチニールのグラデーションを沈ませたくもない、などとあれこれ考えているうちに、未使用の染め済みの玉糸110中2が出てきました。念のため1綛多く染めたか、計算違いをしたかの糸と思います。量としては充分あるし、少し試し織りをしてみようと思います。
1枚目の緯糸より濃度はかなり薄く、明るい感じです。薄い分だけ玉糸の光沢感が際立っています。


試し織り

試し織りをしてみました。
写真ではわかりづらいのですが、1枚目よりも明るくなっています。経糸の地糸の地味さがどこかにいって、緯糸の明るさだけが際立っている感もあります。コチニールのグラデーションは、意外にこちらの方がよりはっきりしています。濃い紫とピンクの差がくっきりとわかります。経糸の通し方は同じでも、緯糸で印象が変わるのもいいな、と思って、この糸に決めます。
緯糸
染料:矢車 3%
媒染:硫酸第一鉄 0.3%(後媒染)


経吉野織2

1枚目は、a、b、c、d、のパターンを5段ずつ均等にしたせいで、経吉野織の模様が単調になったので、2枚目は段数を変えてみます。
a、b、c、dのパターンを3段ずつ織り、その続きにそれぞれのパターンを5段ずつ重ねていきます。そうすることで平織部分の間隔が広くなったり狭くなったりして、変化が出るかなと思います。


経吉野織

実際の織面では段数による変化というより、経糸の浮きの箇所と平織部分との陰影が出ています。これは、経糸と緯糸の色の違いの変化だと思います。意外な面で、経吉野織の効果が出たように感じました。


房分

今回のように、1回の整経で2枚分のショールを織る時の1枚目と2枚目の間は、房の長さの経糸を空けます。今回は1枚につき片側で10cm、両方で20cmの房分を加えています。ですから、1枚目の終わりの10cmと2枚目の始まりの10cm、合計20cmを織らずに男巻に巻きます。気をつけたいのは、織らずに男巻に巻くことで経糸が織って巻かれた織布からはみ出てしまうことです。はみ出ないように気をつけるか、機草(薄手の紙)を挟んで経糸だけを巻いていきます。ちなみに、1枚目のショールの最初の房は男巻布に結んだ部分を房にし、2枚目の終わりの房は織り上げた後の捨て分を房にします。

かなり意識したコチニールの経縞のグラデーションは、正直な感想で「あるかな、あるんだな、」といった微妙さです。グラデーションという思い込みではなく、単純にグレーの地糸の中に赤系統の縞がある、とざっくりと考えた方が良さそうです。
この赤系統の縞が緩やかな湾曲をするというもうひとつの思いは、経糸が織機にかかっている間ははっきりとはわかりません。織り上がり織機から外した時に、ようやく織機の強い張りから織布が解放されて歪んでくるものだと想像しています。

仕上げ


経吉野織

今回のショールの質感を、「ふんわり、軽い」、と決めていました。
110中2の玉糸を30羽の丸羽で通し、緯糸も玉糸で織れば、それだけで薄い織布になります。その上、経吉野織の平織と経糸の浮きの変化を織り込めば、薄いというよりも弱い織布になるかもしれないとも思いました。
今回の玉糸の経糸、緯糸には布海苔とショウフ糊で糊付がしてあり、織り上がって織機から外した時の感触はむしろ堅く、シャリ感のあるものでした。これはこれで、ショールとしておかしくはない感触です。 でも、ふんわり、軽い、とは違います。写真の見た目も、やはり堅いかっちりした感じがあります。


経吉野織

着尺の仕上げは、専門の湯のし屋さんに湯通しと湯のしをお願いして、柔らかい感触の紬の着尺にして頂いています。今回のショールもお願いしようかどうしようかと思いましたが、できるなら自分で仕上げをしたい気持ちが強かったので、いろいろ試しました。
最初に、通常の絹のショールの仕上げの方法をやりました。35℃〜40℃程度のぬるま湯をシンクに張り、そこに房を作ったショール2枚を軽くゆくらゆくらさせて、約30分そのままにしておきます。30秒の脱水の後、形を整えて干します。湿り気がある時は良い具合の柔らかさに思えましたが、完全に乾いてみると糊の堅さが復活しています。糊は、容易には落ちないのです。
あまり絹を傷めたくないな、と思いつつ、湯通しの意味を考えてみました。湯通しは、糸遣いを滞りなくするために付けた糊を落とすために行います。糊を落とさないと糸本来の風合いが出ないだけでなく、カビが生えることもあります。
湯通しの湯の温度は、もっと高いのではないかと思いました。35℃くらいでは糊は落ちないのです。さらに洗剤も必要かもしれないと思いました。
再度、仕上げのやり直しです。やったことのない方法なので、2枚のうちまず1枚目で試してみます。
湯沸かし器の最高温度、多分70℃〜80℃くらいかと思いますが、そのくらいの熱いお湯をシンクにため、ウール洗い用の中性洗剤を普通の洗濯の量程度に入れます。ウールマフラーの縮絨の時などは濯ぐ手間を手短にするために少なめに入れるのですが、今回は糊落としのためもあるので量は普通です。
それから洗うように、ショールを振って揺すります。そのまま30分から1時間洗剤の中に付け置きます。


経吉野織

その後洗剤をよくすすいで、30秒の脱水後、形を整えて干します。湿っている時は最初の時と同じで柔らかい感触ですが、乾いてみないと実際の柔らかさがわかりません。透ける薄い布なので、ものの30分くらいで乾きました。
感触は、最初程ではないですが、やはり堅さが残っています。それと、今までショールには見なかったシワが出てしまいました。
堅さが残った上、シワまででたか〜、と少なからずがっかりしました。シワは、やはり洗う感覚で揺すったせいだと思います。
それでも、見せたかった経吉野織の赤い縞の湾曲の変化は良く出ていましたので、この後どうするかなぁ、と考えつつ乾いたショールを1日干しっ放しにしておきました。
もう1度熱い湯に浸けるかどうか。絹は熱に弱い性質を持っています。柔らかさを求めるあまり、布を傷めるのもどうかと思う気もあります。そんなこんなで、翌日もう1度干してあるショールに触ってみます。
あれ?と思いました。柔らかくなっています。試しに、ショールを軽く握ってみました。キュッとして、ますます柔らかい感触が出てきます。なんで?と思いつつ、いつもやるようにざっくりと首に巻いてみます。うなじの辺りに触る感じが柔らかくて気持ちが良いです。
この時の嬉しさは、何と表現したらいいのか。思うようにいった!というよりも、またひとつ糸に教わったように思いました。
間違ったやり方かもしれないけれど、試してみる。経過と結果が一致するとは限らない。もし、ショールが見る影もないものになったとしても原因はわかるはずで、その積み重ねが今の自分の糧なのだと思います。
もう1枚も同じ方法で仕上げをしました。同じように、乾いてすぐには柔らかくなりませんが、時間を置くとしんなりとしてきます。
湯通しの熱い湯は糊を落としてくれるでしょうが、時間を置いて感触が柔らかくなるのは、もしかして中性洗剤の中に入っている柔軟剤成分のお陰かもしれません。
もうひとつのどうするかな〜、のシワのことです。
シボとは違い、シワはまっさらな布にできる癖です。シボはそれ自体が布を作り上げているもので、阿波のしじら織などが有名です。また、布を糸で細かく結んで染める絞り染めも、敢えてシボをとらずにその美しさを魅せています。
ショールでも、素材の違いでシボを織り込むことはあります。ウールと絹の伸縮の違いから生まれるシボは織布自体がふくらみ、大層暖かいものです。
ですが、今回のシワはどうなのか。本当のところ、見た目にはそれほど感じませんでした。
私は、布にシワがあるのはある程度仕方がないと思っています。着物を着る時も、シワがひとつもなくビシッと着る方が却って不自然に感じてしまいます。ですから、今まで織ったマフラーやショールのシワを気にしたことはありませんでした。もっとも、シワがよるような素材を使ってこなかったこともありますが。
記録用の写真を撮った時に、そのシワの多さに愕然と来ました。ガクゼンは大袈裟ですが。


経吉野織 経吉野織

今回のショールは、シワはない方がきれいだな、と率直に思いました。では、どうするか。
自作のショールの仕上げにアイロンをかけることは、ほとんどしません。洗いっ放しで形を整えて乾かせば、それなりにシワは取れていたからです。ですが、玉糸のショールは違うのだ、と思いました。着尺の仕上げでも、湯通しの後に湯のしをします。湯のしは、大雑把な解釈をすればアイロン掛けと同じ役割です。(注:実際には湯通した布に蒸気をあてて縮んだ布を整えるものです。)
アイロンをかければシワはとれます。でも、経吉野織の平織部分と経糸の浮きの隙間にある独特のふくらみまで平らにしてしまわないか、それがアイロン掛けを躊躇った理由です。
結局、アイロン掛けをしました。スチームアイロンの蒸気をショールにあてることが第一で、アイロン自体は部分部分にあてるようにして、目立った大きなシワのところを中心にしてみました。 すべてのシワがとれたわけではありません。でも、ゆったりと羽織ったり、首やうなじに巻いたりするにはさしたる傷にはならないと思います。

最後に

ショールという巻物の衣類に、玉糸が適切だったかどうか。
前項でシワのことに触れましたが、アイロン掛けひとつに悩むこと自体ご大層ではないか、と思われる方もいらっしゃると思います。実のところ、自作でここまでシワシワのショールを見たのは初めてでした。
今までたくさんのマフラー、ショールを織りましたが、どんなテーマで織ったにせよ、色の変質が酷くないこと、洗濯で質感が大きく変わらないこと、このふたつは一貫して守ってきたことです。
洗濯で質感が変わらない。これは洗濯の仕方にも関わりますが、「洗濯機で、洗濯ネットに入れた上『ドライ洗いコース』で、中性洗剤で洗ってください。」とお買い上げ頂いた際には、必ずお伝えしてきました。
そのために、それ相応の素材を選んできたことがあります。複数の素材の糸を合わせること、ウールと絹、絹と麻。綿と麻、また、それぞれの素材にも多様な顔があります。それらを使い分けて、季節感に合わせたショールを織ってきました。
玉糸は、それらの洗濯堅牢度に耐え得る素材だったのか。もしかして、他の素材と合わせて織ったら、しなやかさも堅牢度も高かったのではないか。
玉糸でショールを織ったことで、またひとつ楽しみができたようです。


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