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糸染の工程「糸染を始める前に」

糸染の準備

染める綛糸の重さを量る

糸染を始める前に、必ず綛糸を水または湯に浸します これは、染料の吸収を良くするために必ず行う工程です このことを、湿潤作用、または湿潤効果といいます
まず、染める綛糸の重さを量ります


綛糸

綛糸1綛ごとに、梱包用の紐を結びます 綛糸が余裕を持って動くように緩めに長さをとり、輪にした紐の結び目の端は短く切ります
1綛量が50g程の嵩の少ない綛の場合、絡み合う心配が少ない糸ならば、2綛〜3綛を一緒に梱包用紐で束ねることもあります

その後、綛糸を水または湯に浸します 糸の種類により水分の浸透の時間が違います

絹糸は短くとも1〜2時間は浸けておきます 真綿紬糸のように浸透が悪い糸は、60℃程度の熱めの湯に少なくとも2〜3時間から半日ほど充分に水分を浸透させます 絹紡糸のように精練工程をせずに染める絹糸は、熱めの湯に浸けることで撚糸の油分を落とす役割もありますから、やはり1〜2時間は浸します

ウール糸は、40℃くらいの温湯に浸します 水分の浸透は良いので時間は長くなくても大丈夫です ただ、絹糸、ウール糸とも極端な温度の変化に弱い性質があります 絹糸を熱い湯からいきなり冷たい水に浸すと劣化の一因になりますし、ウール糸はフェルト化することがあります 糸染は温湯から始めることがほどんどなので、外温、水温にもよりますが、事前の付け置きは水よりも温湯の方が適しています


綛糸

綿糸、麻糸は、温度変化には左右されませんので、水、湯でも大丈夫です 精練を行った綿糸は水分の浸透は早いですが、20〜30分は浸します

綛糸に充分に水分が浸透したら、脱水をします 脱水機を使用しますが、1分程度で充分です
その後、必ず湿った状態で糸染を始めます

糸染の基本の計算

糸染を行う前に、必ず色の濃度の%に対する染料の量、助剤の必要量を計算します 助剤とは、糸を染めるために必要な薬品です 合成染料の各種類、天然染料の媒染の種類により、それぞれ使用方法と割合はまちまちです

糸染の約束事は、染料と助剤を、被染物(糸)の重さから計算するか、染浴の量から計算するか、です

染料の濃度は合成染料、天然染料とも、%で表します 一般に、染料だけでなく、固形、粉状の助剤は、糸の重さに対しての%で計算します 
例:100gの糸を3%の濃度の合成染料で染める
  100g × 3% = 3g

液体の助剤は、多くの場合染浴に対しての容量になります
例:100gの糸を染める染浴が糸の重さの30倍であり、合成染料に使用する助剤は2cc/Lになる
        2cc/Lは、1Lに対し2ccを要する、という意味です
  100g × 30倍 = 3000cc = 3L …染浴の量
  2cc × 3L = 6cc         …助剤の量

例外はあります 液体天然染料は、染材を煎じた状態で販売している液体染料ですが、これは糸に対しての%で表します 助剤の中にも染浴量をもとに計算しないものもあります
それぞれの染料と助剤の使用方法を守る事が、自分の色を見つける最良の道だと思います

糸染の基本の動作

糸染で染浴の中で綛糸を均等に動かすことを、繰る(くる)といいます 染めムラを防ぐために、繰る作業が大切です

糸の繰りは丁寧に扱うことが第一ですが、糸の太さ、丈夫さ、繊細さ、綛数などで繰り方が変わります

絡みや毛羽の引っかかりが少ない糸は、染色棒でタンクの底から上へと綛糸全体をひっくり返すように大きく繰ります こうすることで、タンク内の昇温が安定します 小さい動きでかき回すと綛糸が回り切らずに、染浴の昇温がタンクの底のみに集中してでムラになります

繊細で乱れやすい糸は、綛糸を染色棒に通した状態で染浴に浸けて染め始めます 染色棒をタンクのふちに渡しかけて、棒を抑えて綛糸を向こう側から手前に回しながらまんべんなく染浴に浸していきます 手間はかかりますが、綛糸が乱れる危険がありません あるいは、ゴム手袋を着用して綛糸を持って、両掌で優しく綛糸を回していく方法もあります 温度が上がるにつれゴム手袋をはめていても熱くなりますが、丁寧に染めるには良い方法です どちらも、染浴の温度が70℃前後に上がったら、綛糸を静かに染浴の中に入れます その後は、熱い染浴に無理に手を入れない方が安全です 毛羽立ちの強い細糸は、わずかの接触でも綛が乱れることがあるので丁寧に扱います

ウール糸は、温湯の中で繰りすぎるとフェルト化することがあります フェルト化は、温湯で圧縮など刺激することでウールの繊維が固まる現象です フェルト化した綛糸は、染色後に解くことに難渋します ウール糸は絹糸より染まり付きが早く、染めムラ防止のために急いで繰ることもフェルト化する一因です 火にかけてから低温のうちに繰るようにします 染浴の下と上の温度を一定に保つためにも、染色棒で大きく糸をひっくり返して繰ります 染めムラだけではなく、フェルト化させないためにも、小さくかき回すことは避けます ウール糸は、70℃前後になったら繰ることは止め、染浴に浸します

色の濃度 色の重ね

色の濃度は、染料の種類により割合が違います

合成染料の場合、大まかに濃色、中色、淡色の3通りに分けることがほとんどです これはあくまで目安で、素材により濃淡の差が大きく出る場合があります ウール糸は絹糸より濃く染まる傾向にあります 同じウール糸でも、梳毛糸と紡毛糸では濃度が若干違います 糸種の特徴によって濃度や色味は変わるので、色見本はあくまで参考であって、絶対のものではありません

大抵の合成染料は混色が可能です 混色とは、同じ染料の色番号(色名)を2色以上合わせることをいいます 混色の濃度の決め方は、染めたい全体の濃度から、混色する染料の割合を分けて計算します 黄色に少し青を加えて黄緑色にしたいという時、染めたい濃度が3%とすると、黄色の染料を2%、青の染料を1%とというようになります この場合、必ず被染物(糸)に対しての重さでそれぞれの染料の計算をします

例:糸の重さを100gとして、全体の濃度を3%とする場合
100g × 黄色の染料 2% = 黄色の染料 2g
100g × 青の染料 1% = 青の染料 1g 
その計算をもとに染料を量り、ホーローのボウルに一緒に入れて混ぜ合わせます
なお、助剤は全体の濃度%、もしくは染浴の量により計算します

合成染料の混色は、通常2色です 多くても3色までで、それ以上の混色は色が濁るきらいがあります

天然染料は、染材を煎じた時の抽出度により濃度に違いがあります また、媒染剤との兼ね合いもあり、濃度が同じでも濃淡に差がでることがあります 同じ色を求めることは難しいですが、天然染料と媒染剤の割合、染色の際の条件が一致すれば、ある程度は可能です

天然染料の抽出度と染着力が良いと、1度の染めと媒染で望む色を出すことができます そうでない時、天然染料で濃く染めるためには染めと媒染を繰り返して濃度を濃くします これを、色を重ねるといいます 色を重ねることは、色を濃くするだけではなく、色に深みを持たせます

先媒染の場合は媒染→染色→糸洗い→媒染→染色→糸洗い…、後媒染の場合は染色→媒染→糸洗い→染色→媒染→糸洗い…を繰り返します 1回の糸洗いを終えた際の次の染めは、糸を乾かして時間を置いた方が色の染着が良くなります 同じ媒染剤でなくとも重ねることはできますが、必ず前回の媒染剤を糸に残さないように良く洗い流します 2回目の染めの時、1回目に染めた色が染浴や媒染液に落ちることがありますが、これは普通のことです 2回目の媒染で1回目の染の色素が反応して、さらに発色が良くなることもあります いづれにしても、天然染料の場合は媒染→染め→糸洗い、あるいは染め→媒染→糸洗いの工程が1サイクルで、途中で中断することは糸の傷みにも繋がります

天然染料では合成染料のように染料を最初から混ぜ合わせることはできませんが、別種の染料を1回ずつ重ねて色を染めることはできます 天然染料は、人の思惑通りに色は出せません 例えば、天然染料で黄緑色が染めたいと思っても、天然染料の中には黄緑色はありません そこで、中藍に染めた糸にアルミ媒染を先媒染をして、楊梅皮や刈安のような黄色の出る染材を煎じて染めます こうして、黄緑色を得ることもできます このように色を重ねることで、もう一つの色を生み出せます また、1回目の染色で発色が良すぎて、もう少し色を抑えたいと思う時にも、別の淡色の染料を先媒染→染色することで、色を落ち着かせることもできます 身近に扱える天然染料は限られていますが、色を重ねることで広がります
*藍染は、媒染を行わない染色方法です

合成染料で染めた糸に、天然染料を重ねることもできます 合成染料に、天然染料を重ねることで落ち着いた色合いが得られます この方法を用いる時は、合成染料の染色→糸洗い→先媒染→天然染料の染色→糸洗い、ないし、合成染料の染色→糸洗い→天然染料の染色→後媒染→糸洗いの順になります
天然染料で染めた糸に合成染料を重ねることもできますが、合成染料に含まれる成分の方が強いと先に染めた天然染料の色が落ちてなくなる場合があります

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