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糸染の工程「合成染料」

ここでは、含金錯塩染料、直接染料、媒染染料の3つの合成染料の染色方法を記します
合成染料には、他にも酸性染料、還元染料など多数ありますが、発色の良いこと、堅牢度が高いこと、助剤の扱いが比較的安全なことから、主にこの3種類を常時使用しています
ここでは、糸染の方法のみを記します 布を染めるには適さない箇所もありますので、ご留意ください

含金錯塩染料(がんきんしゃくえんせんりょう)

商品名は、イルガラン染料、イルガノール染料などがあります 主に、ウール糸、絹糸を染める染料です

金属塩を含むために媒染の必要がなく、1回の染工程で染まります 金属塩とは水溶性の金属で、染料の染まり付きを良くします 染浴は弱酸性ですので、酸に弱い絹糸も染められます

この染料の長所は、日光堅牢度と洗濯堅牢度が高いこと、染着力が良いこと、色の種類が多いこと、混色ができることです 難点は極濃色に染めにくいことです 被染物(糸)に対して3%が限度で、それ以上の濃度は染浴に染料が残って染まり付かなくなります ムラになりやすいために温度調節が大切です

常時使用しているイルガラン染料とイルガノール染料の違いは、イルガラン染料は微妙な色が単色で染められること、イルガノール染料は色数は少ないですが、明度が高く澄んだ色が染められることです このふたつの染料の混色も可能です


糸染め

染料店で販売されている色見本は布の場合が多く、糸染とは色味が違う場合があります 自分で色見本を作って、制作の資料にすることも自分の色を見つける手だてになります

含金錯塩染料は使用期限が長く、日持ちする染料です なお、含金錯塩染料を含め合成染料は、色番号(色名)が廃番になることがあります

染色方法

含金錯塩染料の濃度は、淡色0.3%、中色1%、濃色3%ですが、染料の溶解度が良く、染まり付きもいいために0.1%以下でも染まります
同じ色名の染料でも、ウール糸と絹糸、あるいは絹糸の種類によっても色の濃度の違いがでます 一般に、ウール糸は濃いめに、絹糸は薄めに染まります そのことを念頭に、染料の濃度を決めます

含金錯塩染料に必要な助剤は、酢酸(CH3COOH)です 酢酸の役割は、染着力を高めることです なくとも染まりますが、色落ちが激しくなります 酢酸は、様々な濃度のものが販売されています 最も濃い氷酢酸は99.9%で、ほぼ原液に近いものです 氷酢酸は氷温が高く、冬場は室温でも凍ってしまいます 使う数時間前から薬剤のボトルを温湯に浸けて溶かす手間を省くために、通常は酢酸80%を使用しています 酢酸の必要量は、淡色1cc/L、中色濃色2cc/Lです 氷酢酸を使用する時は、その容量の1/3の量になります これは、氷酢酸が強い酸性なので、酢酸33%(99.9%の約1/3)の量に調整するためです 氷酢酸以外の濃度の酢酸は、一律に1〜2cc/Lになります

糸の重さを量り、その糸に対しての染浴の量、染料の重さ、酢酸の量を計算します

染浴は、温湯35℃くらいで糸の重さの20倍〜30倍です 20〜30倍のおおまかさはムラ防止のためで、綛糸がタンクの中で充分に泳げる状態が必要だからです 同じ100gでも、かさのない絹糸は20倍で、重さに対してかさのあるウール糸は30倍の染浴にします

例:絹糸100gに、イルガラン染料グレーRL 0.1%を染める

染色

最初に、タンクに温湯を量ります


染色

グレーRLを0.1g量り、ホーローの小ボウルに入れます 染料を溶く時は、必ずホーローのボウルを使用します


染色

量った染料に50℃〜60℃の熱めの湯を注ぎ、薬さじで溶かします 低温の湯だと溶けにくく、溶け残しのダマができることがあります 0.1g程度ならすぐに溶けますが、濃度が高かったり糸量が多くて染料の量が多い時にも染料のダマができやすいので、念入りにゆっくりと溶かします


染色

溶け切ったことを確かめ、タンクに入れます この時、ボウルの染料が残らないように、ボウルごとタンクの温湯に入れて注ぐと無駄がありません


染色

酢酸を量り、タンクに注ぎます


染色

染色棒でタンクを撹拌し、酢酸と染料をよく混ぜ合わせます この液が染浴になります

あらかじめ温湯に浸しておいた絹糸を脱水し、染浴に入れます その後、ただちに糸を繰り始めます

糸全体に色が行き渡ったら、タンクを火にかけます 火の加減は中火から、徐々に昇温します 40℃〜70℃がもっとも糸に染まり付きます その間糸を繰って、染めムラを防ぎます また、タンクの底の方が温度が高くなるので、底の温度と表面の温度を均一にするためにも繰ることが大切です

70℃前後で繰る作業は終わりにします 70℃〜90℃程になると、染料の色が綛糸に吸収されて染浴が透明になります 絹糸、ウール糸とも、そのまま染浴を沸騰させ、30分煮沸します

30分経ったら、火を止めてそのまま冷まします こうした冷まし方を放冷といいます 放冷中にも染浴に残った染料が糸に吸収されます 40℃程度になったら、脱水をして糸を洗います 絹糸もウール糸も、温度の急激な変化は糸を傷めます 糸染を始めた時の温湯の温度に戻してから洗う方が糸に優しいです

ウール糸は、必ず綛糸を上下に上げ下ろしをして温湯で洗います 絹糸は水または人肌の温湯で振り洗いをします 酢酸の量が少なかった場合などは洗っている最中に色落ちすることはありますが、ほとんどの場合2、3回の温湯や水での洗いと脱水の繰り返しで済みます 目安として、酢酸の匂いが取れたら終わりです

前述のように、放冷後の染浴は透明になりますが、濃度が高い場合は色が残ることがあります 含金錯塩染料の色によっては残りやすいものもあります 3%以上の濃度だと染料が糸に吸収されずに残ってしまうことがほどんどです

含金錯塩染料は、染浴の色が染める色に近いので、目で確認しやすくわかりやすい染料です そのため、糸に吸収されていく状態を見て、調整していくこともできます 例えば、1%の濃度で計算して、その計算通りに染め始めたとして、糸に吸収されていく段階で自分が欲しい濃度より濃すぎたと思った時、その場で糸を引き上げることもできます この場合、沸騰前であっても吸収された色の変化はありません が、糸の内部まで染料が吸収されていないので、見た目には浅い色味になります

濃度が薄かったり、色に物足りなさを感じたりした時、染め始めてから色を加えることもできます その際は、まず火を止め、綛糸を引き上げます 新たに加えたい染料を計算し、温湯で溶き、染浴に足します この時、染浴の温度をなるべく下げるようにします この時も、酢酸を1cc/L程度加えます そうして撹拌し、改めて綛糸を染浴に浸します この方法は、染浴の温度が上がっていない時には有効ですが、70℃以上になってしまってからでは綛糸に染まり付かずに後から加えた染料だけが残ってしまいます また、染めムラにもなりやすいです

直接染料

綿、麻を染める染料です 自然の染材を用いる天然染料が媒染→染めという2回の工程が必要なのに対して、direct dye、substantive dyeと呼ばれる合成染料が1884年にドイツで開発され、1回の工程で染色ができるようになりました 日本でも同じ意味で直接染料と呼ばれています 日本では布染めに使われることが多く、濃度の濃い原液から必要量を取り、色を合わせて使用します 浸染でも用い、糸染もできます 商品名はシリヤス染料で販売されています

色数は多いですが、色相に偏りがあります 青系と赤系の色が揃っていて、単色で使用してもきれいな色です また、染料を混色して自由に色味をだすことができます

直接染料の特徴は、染料の分子が大きいために水に溶けやすい性質と水に溶けにくい性質を併せ持っていることです このため、水に溶けた状態の中でも染料の分子がくっつき合ったものができます こうした特徴を持つ直接染料に必要なのは、中性塩の助剤と染浴の温度管理です また、糸染の後に再び水の浸すと、繊維の隙間に入っていた染料の分子が溶け出して色落ちします そのため、直接染料では、染色の最後に必ず色止め工程を行います

染色方法

直接染料の濃度は、単色は0.5%以下、中色1〜2%、濃色3〜5%です 助剤は、中性塩である無水芒硝=硫酸ナトリウム(Na2SO4)を使用します 無水芒硝は、染料の濃度で割合が決まります

染料と無水芒硝の割合 染料の単色0.5%以下…無水芒硝5% 中色1〜2%…10% 濃色3〜5%…20%となります

前述のように、直接染料は水に溶けやすい性質=単分子状と、溶けにくい性質=分子の集まった状態があります 染色の際、単分子状であるよりも分子の集まった状態の方が良く染まり付きます 無水芒硝を入れることで、単分子だった染料がくっつき合い、被染物に染まりやすい状態になります これを促染作用といいます ただ、むやみにたくさん無水芒硝を入れても染浴に溶け切らずに逆に染まらなくなりますから、染料の濃度に応じた無水芒硝の割合が大切です

染浴の量は、糸の約30〜50倍です 多めの染浴の方が昇温の上昇を適度に抑えて、染料の染着力を高めます

例:綿糸100gに対し、シリヤス染料レッドF3B 1%を染める

タンクに、30℃〜40℃の温湯3Lを量ります

その中に、無水芒硝を少量ずつ加えます 1度に入れると溶解が悪くなるので、必ず撹拌しながら少量ずづ10gを入れます 無水芒硝は水溶性ですが、温湯の温度が水に近いと溶けません 適正量をすべて入れてもタンクの底に溶け切らずに残っている時は、タンクを弱火にかけて撹拌して溶かします この際、温湯が熱くならないように注意します

シリヤス レッドF3B 1gを、ホーローのボウルに入れ、60℃くらいの湯を注ぎ溶かします 直接染料の溶解は、必ず熱めの湯を用意します 丁寧に溶かし、タンクに注ぎます 染浴の中では無水芒硝とシリヤス染料が反応して、単分子状に溶けていた分子がくっついてきて糸に染まりやすい状態になります 染色棒で染浴を撹拌して、あらかじめ水に浸しておいた綿糸を脱水して染浴に入れ、撹拌しながら染めにかかります

直接染料のもうひとつの特徴に染浴の適切な温度管理があります 糸を入れた当初は、繊維の中への染料の染み込み方にムラがあり、絶えず染料の分子が糸に出入りしている状態です 温湯から昇温し、まだ温度が上がらないうちに染料が糸に染着しはじめ、この時点でかなりの染めムラを見ることがあります 慌てずにそのまま撹拌を続け、その後ゆっくりと温度を上げていくと、染料の分子が糸から離れたり付いたりしながら次第に染めムラはなくなって染着も一定になります ですが、さらに昇温し続け沸騰の段階に入ると、今度は分子が離れ出して染めたい濃度よりも薄くなります こうした特徴を活かすために、昇温の後は撹拌を止め、沸騰よりもやや手前の80〜90℃の状態を30分間維持して糸を煮て、30分経ったら火を止めて、徐々に染浴の温度を下げる放冷に入ります このように、直接染料は低温の方が染まり付きやすい性質があります

染浴が40℃前後に冷めたら、糸を脱水して水洗いにかかります 糸の洗い方は振り洗いをします 色落ちが多いですが、5、6回水の取り替えと脱水を繰り返していると、次第に色落ちの度合いが薄くなります 水洗いだけでは完全に色落ちを止めることはできないので、淡く水が透明になってきた辺りで糸を脱水して水洗いを終えます

脱水後、ただちに色止め処理にかかります 色止めせずに乾燥させて、そのまま織の工程に入っても、手や道具に染料が付着することはありませんが、織り上がった後の仕上げの水通しの時に染め付いた色が溶け出して、色落ち、色泣きの原因になります 必ず色止め処理は行います

直接染料の色止め処理剤は、フィックス剤といいます 染料店では、おのおの「○○フィックス」という商品名が付いていますが、フィックス剤の効果は同じです 4〜10cc/Lのフィックス剤に脱水した糸を入れ、浸けムラがないように軽く揉んだ後、15〜20分浸け置きます フックス剤の必要量は、染料の濃度により調整します 淡色なら4、5cc/L、濃色ならば10cc/Lの溶液を作ります その後、脱水をして乾燥させます

媒染染料(ばいせんせんりょう)

媒染は、天然染料で染める時に必要な工程です 天然染料は、樹皮、葉、根、花、虫などを、生のままで、あるいは乾燥させたり醗酵させて染料とし、煎じたり煮出して糸を染めます しかし、それだけでは繊維に染着しないので、自然の中に元来存在する泥、樹木を燃やしてとった灰汁に含まれる金属塩、現代では媒染剤という金属塩を使用して媒染工程を行い、自然の色を定着させます 金属塩とは、水溶性の金属です

天然染料の染めは、物作りの営みの中で受け継がれて現在に至っています ですが、工程に手数がかかることや、天然素材に堅牢度が弱いものが多いこと、濃色を染めるために染めと媒染を繰り返す手間が必要なことから、もっと簡単に、さらに濃い色を一工程で出せるように作られたのが媒染染料です 媒染は、媒染剤を糸に定着させてから染料を溶解した染浴で染める方法=先媒染、染浴で糸を染めてから媒染剤で色を定着させる方法=後媒染があります 媒染染料もそれに準じますが、これは天然染料のやり方に倣ったものです

媒染染料の中で幅広く使用されてきたのは、酸性系媒染染料、商品名クロム染料です 主に、動物性繊維を染める染料です 含金錯塩染料よりも濃色に染めることができるのですが、ウール糸を染める時、媒染剤に重クロム酸カリ=二クロム酸カリウム(K2Cr2O7)という劇薬を使用することから、自身は使用していません ただし、クロム染料で絹糸を染める時は、重クロム酸カリではなく、酢酸クロムを使用します 酢酸クロムは劇薬ではありません

ここでは、アリザリンレッドSという媒染染料についてのみ記します

アリザリンとは、西洋茜の根の赤い色素のことです この赤い色素と同じ物質を合成して作ったものがアリザリンレッド alizarin red(C14H8O4)で、天然染料と同じ化学成分を持つ初めての合成染料です 茜の根を煎じて染めて媒染することと、アリザリンレッドSで染めて媒染することは、手間としては同じですが、アリザリンレッドSは1回の工程で濃くも薄くも染めることができる長所があります この濃度の選択肢の広さが、合成染料の1番の強みでもあります


媒染染料

アリザリンレッドSは粉末状で、溶く時も温湯で溶解します この染料は先媒染でも後媒染でも使用できます 染着力も堅牢度も良く、濃色で3%、淡色で0.3%程度になりますが、濃淡の発色は糸種によっても違いがあり、あくまでも目安です

アリザリンレッドSは、こうした経緯でできた媒染染料なので、染め方も天然染料と同じです 主な媒染剤は、アルミ媒染=生明礬(カリみょうばん)、酢酸アルミニウム クロム媒染=クロム明礬、酢酸クロム 銅媒染=硫酸銅、酢酸銅 鉄媒染=木酢酸鉄、硫酸第一鉄 などを使用します

天然染料には染料のエキスを抽出した粉末状のものがあり、アリザリンレッドSの染色方法はこれらの粉末状エキスの染色方法と同様です 天然染料の項、ヘマチンの染め方をご参照ください

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